何が問題なのか、なぜこうなったのか…数々の疑問に元「中の人」が応える

公開日:2014/1/10

官報複合体―権力と一体化する新聞の大罪

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:牧野洋 価格:1,404円

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タイトルの「官報複合体」とは、政府や大企業など権力者をチェックすべきマスメディアが、その用を成さずに進んで権力者の道具となり情報をコントロールしている現状を皮肉った、上杉隆の言葉である。本書は、日経出身でアメリカでジャーナリズムを学んだ経験もある著者が、歪んだ日本のメディアの様相を分析したものだ。

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渦中にいればその歪みには気づきにくいが、高級紙と呼ばれている海外紙の報道は日本とは全く違う。対立する利害関係者を取材する場合は、必ず両方に取材し、コメントを断られた場合は「ノーコメントという返事を得た」事実も書く。権力者側からのみの談話しか掲載しないとすれば、それは報道ではなく、ただのプレスリリースになってしまうと考えられているのだ。

著者も例に挙げているが、例えば、厚生省の村木厚子氏が無実でありながら逮捕されたとき、各紙は村木氏には一切取材せず(あるいはしたとしても何も掲載せず)検察側からの大本営発表だけを掲載し、赤恥を掻くような羽目に陥った。ではなぜそのようなことが起こったのか? 記者クラブとリークについての批判は、ネットの上ではもはや常識だが、著者はさらに、日本では、数ヶ月から半年もの時間をかけて取材し情報分析する調査報道が根付いていないこと、検察官や裁判官の名前すら報道しない匿名性の問題や、意味のない特ダネ合戦が優秀な記者の目安とされ、現場の記者を疲弊させていることなど、陳腐化した新聞ジャーナリズムの裏側を露わにする。

実際、日本の新聞は読者を大量に失いつつあるのだが、通信社のニュースや企業のプレスリリースがネットで簡単に入手できるいま、政府や企業の発表をそのまま垂れ流す媒体は、今後ますます淘汰されて行くだろう。しかしアメリカでも、時間と人手(つまり経費)のかかる調査報道はリストラ対象にされがちということだ。

では新たなジャーナリズムはどのような形態であるべきか? 著者はアメリカの報道NPOやネット媒体を取材し、新しいメディアの姿も示している。

しかしこの本、書かれている事実は面白いのだが、著者の悔恨ともつかぬ「サラリーマン記者としてそれしかできなかった」ボヤキが頻発するなど、イラッとさせられる部分も多少あることを付記しておく。紋切り型表現も頻出。もちろん、それを押してでも読む価値がある。


記者クラブはなぜいけないのか、「そこからですか?」的疑問も著者は解明してくれます

秘密保護法の制定により、日本は英仏どころか、ロシア、中国、北朝鮮と並び称される国になってしまったが、ジャーナリズムの可能性はまだある

なぜネットに人が流れるのか、簡便性やコストだけではない実情も示される