ソチ開幕! 天才少女・高梨沙羅が常に感謝する女子ジャンプの「先輩たち」とは?

更新日:2014/2/12

フライングガールズ 高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Kindleストア
著者名:松原孝臣 価格:※ストアでご確認ください

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 ソチ五輪開幕。今一番注目を集めている選手といえば、ソチから正式競技となった女子スキージャンプの高梨沙羅だろう。2012年にワードカップ初優勝を遂げ、16歳で世界一になった天才少女は、謙虚な姿勢を崩さない。彼女はことあるごとに「先輩たち」への感謝を述べている。彼女が感謝する「先輩」とは? 高梨沙羅の強さは一体どこから来るのか。

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 松原孝臣氏著『フライングガールズ 高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦』では、17歳の天才少女と日本女子ジャンプの歴史に迫っている。高梨沙羅は、長野五輪で金メダルを獲得した原田雅彦の出身地である北海道上川町の出身。彼女の父・寛也は原田とともに練習に励んだ元ジャンパーであり、兄もジャンパーだという。

 「シーズンインする前もジャンプを飛んでいない間も、ほかの人のジャンプを見て、イメージを組み立ています」と彼女が述べるように、高梨にとっては日常のすべてがジャンプのための練習だったのだろう。しかし、高梨は、自分が頑張ったというのは口にせず、「周囲の人に支えられた」ことを強調する。これには、女子ジャンプの過去が深く影響を及ぼしているようだ。

 「“女子がジャンプなんかしたら、将来、子どもができなくなる”ということが平気でいわれていた」。松原氏によれば、元女子スキージャンプ選手で、現ジャンプ女子日本代表コーチである山田いずみは、女子ジャンプをめぐる過去をこう振り返っている。今から20年前は「女子にジャンプは不可能」という偏見があり、アスリートとしての未来は簡単には描けなかった。大会出場は断られるばかりで、試合開始前の試技にとどまることが多かったようだ。

 山田が中学生の時、長野県飯山市の大会で女子の部が設けられたが、出場者は彼女ただひとり。どんな成績であっても山田に渡ることがわかりきった優勝賞品としてティアラが用意されていた。だが、山田に続いて葛西賀子が女子ジャンプ界に現れ、渡瀬あゆみや伊藤有希らもそれに続いていく。女子ジャンプの先駆者たちは偏見と戦いながらも、ともに団結して女子ジャンプ界を盛り上げてきたのだ。それを知っているからこそ高梨沙羅は「先輩」への感謝をことあるごとに口にする。

 高梨沙羅の強さとして山田は、「無駄のない動き」を評価している。ジャンプは、助走路を滑り降りる「アプローチ」から踏み切り、空中姿勢、着地まですべてが天候に左右される。自ら攻めることができるのは踏み切りの部分にしかないといわれるジャンプにおいて、大切なのは、踏み切りと姿勢の正確さ。バーを離れれば風の抵抗を受けぬようできるかぎり身を小さくし、ジャンプ台を滑走してスピードを稼ぎ、空中ではバランスを保って風の抵抗をできるだけ大きくして浮力を得る。

 山田曰く、高梨はこれをもっとも正確に行なうことができる選手なのだ。イメージしたものを具現化する能力が彼女の武器だ。インターナショナルスクールに通い、入学してわずか4カ月で、高校3年間で習得すべき学業のレベルに達したというエピソードからも伺わせるような並外れた集中力も彼女を大きく飛躍させた。

 「目の前のひとつひとつに集中します」。メダルを期待する取材陣のペースに惑わされることなく、高梨は一歩ずつ進もうとする。「先輩たち」の思いを背負って彼女は五輪の空へと羽ばたいていくのだろう。

「先輩」の苦闘があったからこそ、今の高梨がいる。高梨をはじめとするフライングガールズは、五輪でどのような姿を見せてくれるのだろうか。彼女たちの活躍を期待してやまない。


自分のペースを決して崩さない高梨沙羅

彼女はいつも「先輩」への思いを口にする

女子にはジャンプは不可能、といわれていた時代がわずか20年前だということに驚かされる

秘蔵写真ももりだくさん

女子ジャンプの選手たちの結束力は強い。ぜひとも五輪でも実力を発揮してくてほしい!