脇役も魅力溢れる「まほろ駅前」シリーズ第3作

小説・エッセイ

公開日:2014/2/20

まほろ駅前狂騒曲

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:三浦しをん 価格:1,439円

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 「まほろ駅前多田便利軒」シリーズもいよいよ3作目。『週刊文春』に連載されていた本作は連作短編ではなく、長編形式となっていますが、ストーリーの面白さとテンポの良さはまったく変わらず。そして「多田(ただ)」と「行天(ぎょうてん)」の、事件への巻き込まれ具合も。

 多田と行天がお裾分けのおせち料理でわびしく冷や酒を飲んでいると、大量のなますを手土産に、以前クライアントとして助けた売春婦の「ルル」と「ハイシー」がやってきます。彼女たちは大晦日の夜に野菜を売らされている子どもを哀れに思って大量に大根を買い込んでしまったというのです。ヤマギシ会を連想させるその野菜販売組織は、かつては新興宗教団体で…と、またまたちょっとしたことから郊外都市の暗部につながってしまう展開。

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 その問題に対峙する過程で、行天の過去、親たちとどのような軋轢があったのかも、少々ですが明かされることになります。平行して、あの事務所に4歳の女の子、はるを預かることに。弁当とレトルトとカップ麺しか食べないふたりに、子どもの世話ができるのでしょうか? さらに、キッチンまほろの阿沙子と多田との仲はどうなるの?

 偏屈な岡老人やボケかけの曽根田のおばあちゃん、裏街道をアタマで稼ぐ半グレ星君、星君の麻薬ビジネスに関わっていた小学生の由良公、第1作から登場する脇役の魅力も相変わらずですが、初めての読者にもきっと面白い、インド映画並みに要素てんこ盛りのストーリー。なにしろ児童虐待、子育て、暴走老人、ラブストーリーの全部が入っているのですから。

 ところで、映画化+TVドラマ化以降、瑛太松田龍平くんのビジュアルしかイメージできなくなっていたのですが、下村富美さんのイラストは元『プチフラワー』読者としては大変うれしかったです。

ストーリー 5
設定 5
文章 4
心動かされ度 4.5
インド映画並みのてんこ盛り度 5


こういうギャグを仕込むために主人公の名前を決めていたのでしょうか。著者のセリフ運びの巧みさも変わらず

裏街道で稼ぎまくる半グレ星君、自分と部下の健康管理にもうるさいのだけど、こんなコーチング的なことまで…

今回とくに名言が多い行天。ほかにもいいセリフが多数あるのですが、これはほとんど仏陀の言葉と同じではありませんか