今春、公開の映画『WOOD JOB!』の原作 自然とともに暮らす「林業」の世界とは?

小説・エッセイ

公開日:2014/2/22

神去なあなあ日常

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 徳間書店
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:三浦しをん 価格:540円

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 春はあけぼのなどとつぶやいても、モノクロのビル群には四季の彩りが見えない。四季を感じる瞬間が、「大雪で電車が動かない」時や「花粉症で苦しい」時、「猛暑日」であるなど、都会人は自然を厄介者扱いしている。だからこそ、しっぺ返しにあうのかもしれない。自然を愛し、四季を楽しみながら暮らす方が人間らしい気がする。灰色の顔してビル群を闊歩するよりも、自然の息吹に耳を傾けたい。そんな暮らしやそんな仕事が山のかなたにはあるのだ。

 三浦しをん氏著『神去なあなあ日常』は2014年5月に染谷将太主演で映画化される『WOOD JOB!』の原作でもある今話題の作品だ。三浦氏といえば、本屋大賞受賞作『舟を編む』が記憶に新しいが、今回は、辞書編纂と同じように一般的な人びとにはなじみのない仕事「林業」にスポットライトを当てている。知られざる山の仕事を、三浦氏は美しく、淡々と描き出している。

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 主人公は、横浜出身、19歳の平野勇気。高校卒業後フリーターとして生活するつもりだった勇気は、親と担任教師に半ば騙され、三重県の山奥にある神去村で林業に従事することになってしまう。居候する家のヨキこと飯田与喜に会って早々に携帯電話の電池を棄てられた勇気は友人たちにも連絡がとることもできず、村での生活に飽き飽きし、何度も逃亡を試みる。だが、駅へと向かう足も、列車に乗る金もないから逃げ出せない。いやいやながらも、林業の仕事を始めた勇気だが、だんだんと、その魅力にとりつかれていく。

 雪の重みでパキンと呆気なく折れる木々の音。雨みたいにバラバラと辺りを黄色く染めるスギの花粉。太ももに噛みつくダニやヒル。ひんやりとした神去川。淡い光を放つ蛍の群れ。本の中から、自然豊かな神去村の匂いが確かに香ってくる。壮大な自然の中で、勇気は、雪起こし、苗木の植え付け、下刈り、枝打ちなど、次々とハードな仕事をこなしていく。最初は「逃げたい」と思っていたはずの都会の青年が徐々に山の男になっていくのは微笑ましい。

自然に囲まれたこの村の人はみなのんびりとしている。それを象徴するのが、タイトルにもなっている「なあなあ」という神去村の方言だろう。「なあなあ」とは「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」という意味。村の人びとは事あるごとにその言葉を口にする。自然とともに生活する者たちはほのぼのとして温かい。

 彼らは自然への畏敬の念も決して忘れない。「おかしいと思うか、勇気。山ではなにが起こるかわからない。最後は神頼みしかないんだよ」。特別な山には、身体に塩を塗りこみ、禊をしてから入ったり、蛇の死骸に祈りを捧げたり…。山の神を信仰する彼らの信心深さを時に不思議に思いながらも、自然とともに生きる彼らの姿に勇気は惹かれていく。あんなに嫌がっていたはずの神去村で、勇気はいつの間にか認められたいと願うようになる。

 自然と共生するとは何だろうか。ビルに囲まれた都会の暮らしでは味わうことができない世界が山の中にある。ほのぼのとした温かい気持ちにさせられるこの本は、都会に住むすべての人にこそぜひ読んでほしい作品だ。


フリーターになるはずだったのに、なぜか林業の世界へ

時代錯誤な村の様子にたびたび驚かされる

次第に村に魅せられていく

恋の予感も?

自然とともに生きる村の人の生活
(C)三浦しをん/徳間書店