異才の味を、こってりぎゅぎゅっと詰め合わせ。特上幕の内弁当のような短編漫画集

「イムリ」や「ぶっせん」で知られる三宅乱丈さんの初期短編ギャグ漫画集。 やー、ドキドキしちゃった。なぜって、ページをめくるまで、物語の先が読めないのです。いわば、行き先の知らされないジェットコースター！ 登場するのは、弁当を顔面に押しつけられたい男子高校生だったり、母親にかまってもらいたいティーンだったり。それぞれにひと癖ふた癖あって、思わずにやり。でも、なんだかへらへら笑ってもいられない気分になるのですよね。

ギャグに突っ走りそうでいて、ふいにホラーへ向かっていきそうで。 しみじみと進むかと思いきや、突如エロがほとばしりそうで。 世界がぐるんとひっくり返ってしまいそうな、そんな予感に満ちていて。 考えてみればこの方、ジャンルのボーダーがない。 「ぶっせん」の痛烈ギャグも、「大漁！ まちこ船」のエロな笑いも、「ペット」のサイコワールドも絶品で、今はSF「イムリ」で、ますます世界を深めてる。そしてこの作品集には、それらのありとあらゆる世界がすでにふつふつと芽吹いている気がするのです。 私は幕の内一気食いのようにノンストップでもりもり読み切っちゃったけれど、気分転換に一篇ずつ、いろんな味を少しずつ楽しむのもいいと思います！

この本のタイトルにもなっている「王様ランチ」。子供の頃に体験した顔面シフォンケーキが忘れられない、優等生のキヨ。いとこのアツシの力を借りて、好きな女の子に作ってもらった弁当を～～！

げらげら笑って読んでいると、ふいにどきっとさせられるのは、こういう場面があるからなんですよね。なんでしょう、この禁断の表情……

誕生日をめぐる、母と娘の心理合戦「マイママ」。この展開、ホラーかサスペンスか……。ハラハラしつつ読み進むと、思いがけない結末にたどりつくのです。うーむ、やられた

究極の格闘着（格闘技にあらず！）の開発に励むラボ・マッチョの物語「格闘着」。「ぶっせん」の笑いに通じるギャグの応酬。それにしても、鮫肌水着やフカヒレ水着って、においそうな……

肛門を手に入れたがる男の物語「肛門売ります」や、因果は巡る「ヘビースモーカーの息子」。たとえばスネークマンショーのシュールでシニカルな笑いが好きだった人にはとくに、じわりとくると思います（Ｃ）三宅乱丈／太田出版