代表作が次々映画化。いまこそ読まれるべき早世の作家の純文学。まずは、綾野剛主演作品から

小説・エッセイ

公開日:2014/3/12

そこのみにて光輝く

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 河出書房新社
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著者名:佐藤泰志 価格:702円

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 この作品について知ったのは映画館でだった。4月19日よりロードショー公開される映画のフライヤー。主演は綾野剛、共演が池脇千鶴と菅田将暉。なのにTVCMも打たれず、検索をかけたらクラウドファンディングで宣伝費を集めている。さらに原作を書いた著者がもうこの世にいないことも知った。著者・佐藤泰志氏は、5回も芥川賞候補となりながら、受賞することなく、1990年バブルの余韻があるころ、41歳で自死したという。本書は三島賞候補作だ。ほか『海炭市叙景』が2010年に映画化されている。

 正直、不明を恥じている。エリック・ドルフィーを聴き、マーティン・スコセッシの映画を観るような主人公が出てくる、こんなクールな純文学を書く作家を知らなかったなんて。舞台は函館、主人公の達夫は、リストラに応じて造船所を辞め、貯金を食いつぶしながらぶらぶらしている。彼はパチンコ屋で、テキ屋の拓児と知り合う。拓児には暴力の前科があるが、使い捨てライターをもらったくらいのことで簡単に達夫を信用してしまう、子どものように無垢なところもある。昼食を取っていけと無理矢理連れて行かれた拓児の家は、周囲の開発から取り残されるように建つバラックだった。呆けてしまった父と、父の世話に追われる母と姉との一家は、街の美化のために建てられたマンションに移り住むのを意地で拒み続けている。拓児の姉、千夏は水商売と売春で家族をなんとか養っている。希望のない家で、しかし、千夏は美しく、達夫は恋に落ちる。

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 千夏たちが隠していた家族の秘密を達夫が知ってしまうところまでが第1部。第2部は達夫と千夏が暮らすようになって以降の物語となる。あまりにも悲惨な境遇に生きながら、登場人物たちは自分の人生を受け容れていて、多少のセックスや暴力を交えながらも、物語は淡々と進んでゆく。彼らの生き方を、ひたむきと言っても、投げやりと言っても、違和感を免れない。運命を受け容れ、だが、すべて自覚的に自分で選んでいる強さもあるのだ。街のざらつき、乾いた感じがアメリカンニューシネマの雰囲気だ。


生きることの哀しみに裏打ちされた人生。しかし描写は情緒に走らず、乾いている

不幸になったとしても、それを男のせいだけにはしない。登場人物たちはすべて“弱者”ではないのだ
(C)佐藤泰志/河出書房新社