41歳主婦が1億円横領。あなたもカネの餌食になっていませんか?

小説・エッセイ

公開日:2014/3/18

紙の月

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 角川春樹事務所
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:角田光代 価格:1,512円

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 家事をこなす自分以外に、新しい顔がほしい。つまらない日々の中にほんの少しの逃げ道を見出そうとするのはいけないことなのだろうか。辛いことがあっても、もし、自分に違う居場所があれば、いつでも笑っていられそうな気がする。だが、普段の自分以外の顔を持つとなると何かと物入りだ。オシャレだってしたいし、高級レストランにもいきたい。新しい恋をすればなおさら。どんどんカネが必要になり、不正をしてでもカネを手にいれたくなる。そうしているうちに少しずつ深みにはまってしまって、戻れなくなってしまうのだろうか。

 角川光代氏著『紙の月』は、2014年1月にドラマ化もされた作品だ。主人公はどこにでもいそうな主婦。普段と違う自分を着飾るために金銭感覚が麻痺していく女の姿を見ていると、自分もいつか同じ道を辿りそうで恐ろしく思えてしまう。

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 結婚を機に仕事をやめていた梅崎梨花は、何をするにも夫に許可をとらなければならない立場を窮屈に感じていた。友人の中條亜紀のすすめで、銀行のパートタイムで働き始め、徐々に明るさを取り戻す梨花だったが、妻が働きに出るのがおもしろくない夫・正文との仲はこじれていく。そんなある日、彼女は顧客・平林孝三の家で孫の光太との運命的な出会いを果たす。光太をつなぎとめようとあがくうちに、いつの間にか1億円という大金を横領してしまう梨花。彼女は一体どうして犯罪に手を染めたのだろうか。どんどん壊れていく梨花から目が離せない。

 好きな人ができれば、誰だって思わず背伸びをしたくなる。梨花は自分が普通の主婦で何の取り柄もないことに自信が持てなかったのだろう。だから、高い化粧品を買ってしまったり、光太のために家賃28万円のマンションを借りたりする。光太は一度も梨花にカネを要求したことはないのだが、梨花は貢がずにはいられないのだ。それは、梨花がカネで自らを武装しなければ、光太は振り向いてくれないと感じてしまっているからだ。そのようなカネでしか結び留められなかった関係は次第に大事件へと発展していく。

 ただいつもと違う自分に出会い、別の自分の居場所を見つけたかっただけなのに、カネを使えば使うほど、人との関係も自分自身も瞬く間に崩れていく。カネがあれば、人は幸せになれるのだろうか。カネは人をどう変えてしまうのか。一歩踏み間違えれば誰でも陥るこのホラー小説は示唆的だ。


1億円ものカネを手にした梨花の生活がみな気になっている

仕事を始めたら、夫との関係がギクシャクし始めた梨花

年下の光太に出会ってしまった梨花の金銭感覚がおかしくなっていく

自分の存在とは何なのか

光太も次第に狂い始め、カネから逃れたいと思い始める
(C)角田光代/角川春樹事務所