電化製品を読み解けば、小説が分かる!? 「オール電化」な文学評論集!

小説・エッセイ

更新日:2014/3/31

電化文学列伝

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:長嶋有 価格:432円

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 不協和音を奏でる掃除機の音もキレイ好きな人の手にかかれば、リズミカルなジャズの調べだ。食通の人の冷蔵庫を開けば、活気ある朝市に迷い込んだ心地がする。電化製品というのは、どうやらその持ち主に自然と似てしまうものらしい。家電こそが人を写す鏡なのだ。モノが人よりももの申すなんておかしいだろうか。空想上の登場人物たちを巧みに描写せねばならない小説の世界だって、電化製品は重要な存在となりうるのである。

 長嶋有氏『電化文学列伝』は小説や映画、マンガに出てくる電化製品をネタに、そのストーリーを読み解くという書評集だ。テレビにアイロン、加湿器、炊飯ジャーから電気シェーバーまで「オール電化」なこの評論集の試みはユニークだ。 電化製品ひとつを見ても、小説家がどのような意図を持って電化製品を置いたか、どんな世界を生み出そうとしたかが確かに見て取れる。普段さっと読み飛ばしがちな部分にあえて注目することで、物語の奥深さに気づかされる。小説というのはこうも精密に作られているものなのか。時の移り変わり、登場人物の性格、作者の思い…。あらゆるものを仮託させられた電化製品は、読者に向かって静かに語りかけている。

 たとえば、小川洋子氏著『博士の愛した数式』は、記憶を80分しか保てない元数学者・博士と、家政婦、その息子「ルート」の心のふれあいを描いた物語だが、この中でも電化製品が重要な役目を果たしている。電子レンジの「スイッチさえ押せない頼りなく震えがちな老いた指」を持つ博士。そんな不器用な博士が「アイロンがけ」は巧みにこなすことに長嶋は注目している。「テーブルクロスを広げ、数学者にふさわしくそれを目分量で十六等分し、一つ一つのブロックを順々に片付けていった。」「アイロン」と「電子レンジ」という2つのアイテムによって、博士の数学者としての有能さと生活人としての無能さが描き出されていると長嶋氏はいう。また、無味乾燥なイメージのある数学というジャンルにスポットライトをあて、親しみやすい魅力あるものとした作者の手つきが、博士のアイロンがけの見事さと重なり合っているとも主張している。電化製品が登場人物自身を描写するキーとなるばかりでなく、作者自身をも表現してしまっているのだ。

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 人は物語に触れる時に、その世界に没入していく必要がある。文字だけで描かれた世界の中で、登場人物をいきいきさせるためには描写が不可欠だ。そのひとつのアイテムとして電化製品に目を向けた長嶋氏の説はユーモアに溢れている。このユニークな書評を読めば、小説の奥深き世界に触れることができる。もう一度いろんな文学作品を、「電化製品」という観点から読み直して見るのも、おもしろそうだ。


電化製品を中心とした書評というユニークな試み!

ホットプレートに見る「手抜き感」

リモコンで描かれる父子の姿。小説の引用と評論を読むだけでなんだか作品が気になってしまう

アイロンがけと小説を書くことは似てる?
(C)長嶋有/講談社