酒を知って人生を豊かにしたい人のバイブル的コミック

更新日:2015/9/29

BARレモン・ハート 1巻

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 双葉社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:古谷三敏 価格:540円

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 じつは酒を覚えたのは少し前です。いえね、飲み会では飲んでいたんです。でも、注文するのはカクテル、酎ハイなど甘い系ばかり。もちろん、晩酌なんてしません。「1杯目はビールだろ」なんてチクっと言われたこともありました。ひょんなことから焼酎を覚え、おっウイスキーもおいしい、ブランデーも、と“酒を知る”のが楽しくなってくると、やっぱりウンチクに興味が出てくるわけですね。

 そこで、というわけではありませんが、これも縁なのでしょうか、自分にアンテナが立ったから目が止まったのかもしれません、本作を知りました。舞台は酒に詳しい地味なマスターが地味にやっている、地味なバー「レモン・ハート」。1話完結の短篇構成で、毎話、1つの酒を取り上げて、マスターによるウンチクがかなり深いところまで、あくまでもやさしく披露されます。定番のビールに始まり、ウイスキー、ブランデー、焼酎ほか。客は、酒のシロウトから詳しい人までさまざま。酒を知っている知らないに関わらず、酒というものに興味がある読者なら、いずれかの話にはハマるはずです。

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 実用書的な要素も兼ねながら、各話で多彩な人間ドラマが展開されるのもおもしろいところ。たとえば、サラリーマン2人がバーにやってくる第1話「幻の銘酒」。1人には「酒はこう飲むもんだ」という美学がある、もう1人はとりあえず飲みたい酒が飲めればそれでいい。マスターの前で、お互いが自分を曲げません。実際に酒の席でありそうなワンシーンですが、バーの雰囲気とマスターの人柄とおいしい酒のおかげで、収まるところに収まります。第5話「思い出酒」も印象に残ります。夫に先立たれた老婦人が、生前、夫に勧められながらもかたくなに口にしなかった逸品のブランデー「ジャン・フィユー・トレ・ビュー」。ウンチクを織り交ぜつつ、リタイア後の老婦人の微笑ましい愛情が情緒豊かにやわらかく描かれます。

 作者は『ダメおやじ』で有名な古谷三敏。酒を知り、ますます好きになること間違いなしの1冊です。


静かな通りでマスターが1人でやっている地味なバー「レモン・ハート」

仕事でドイツに行く男が、「ビールを教えてやって欲しい」と友人からマスターに紹介される第2話「今夜のビール」では、サントリー利根川ブルワリーからビールの起源、上面発酵と下面発酵の違い、さらにはハムラビ法典までをからめて語られる

ナポレオンといえばブランデー。しかし、ナポレオンにもさまざまある
(C)古谷三敏/双葉社