絶対絶命のピンチを乗り切った自動車会社はいかにして立ち上がったのか?

小説・エッセイ

公開日:2014/4/12

小説 日銀管理

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 光文社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:本所次郎 価格:756円

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 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』で、地獄から抜け出す蜘蛛の糸がぷつりと切れてしまったのは、多くの人が糸にたかったためではない。主人公が地獄からの救済を独り占めしようとしたためではないか。自分のことばかり考えていたのでは救われない。泥沼から抜け出すのに必要なのは、他を思いやる心だろう。とはいえ、人を思いやることなど普段でも難しいのに、絶望の淵でアナタはそれができるだろうか。たとえば、もしアナタの経営する会社が苦しい時、自分より下の糸を切ることなく、苦境を乗り越えることなどできるのだろうか。

 本所次郎氏著『日銀管理』は、戦後まもなくトヨタが経営危機に陥った史実をモデルとした経済小説だ。2014年3月にTBS2夜連続大型ドラマ『LEADERS リーダーズ』として佐藤浩一主演でドラマ化されたことでも記憶に新しいだろう。

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 戦後まもなく、アイチ自動車が突然の経営危機に陥った。協調融資の挫折。労使の激しい対立。そんな絶望的な状況下に日銀に駆け込むことになった社長・愛知佐一郎だが、裏で運命を握っていたのはひとりの女だった…。アイチ銀行は危機的状況を脱することができるのか? 愛知佐一郎が部下とともに奔走する。

 軍用トラックの生産などによって戦時中の苦難を乗り切ったアイチ自動車も、戦争後の日銀の金融引締めによる大不況の荒波に飲まれてしまった。だが、社長・愛知佐一郎は時代が悪いと嘆くのではなく、「すべて私の責任だ」と言い切る。「乏しきを分かつ」を信条にしてきた佐一郎は、苛酷な人員整理を前に苦しむ。温かい心の持ち主であるがゆえに、なかなか決断ができないのだ。人員整理をしないと企業の将来はないのにも関わらず、一緒に仕事をしてきた仲間を切ることができない。思い悩んでなかなか人員整理を口にすることができない社長の姿は苦悩に満ちている。

 昭和初期、誰もが国産車を作るのは無謀だと思っていた時代に、あえて車作りに挑もうとする佐一郎の熱意にも心打たれる。自分の目で見たアメリカ自動車産業の隆盛を忘れられない佐一郎は、夢を叶えるため、大切な会社を救うために融資先を求めて走り回る。だが、世間の風当たりは冷たい。主力銀行のひとつであった住井銀行の堀田常務は、「機屋に貸せても、鍛冶屋には貸せない」と、アイチ自動車の融資要請を嘲笑う。そんな中、取締役経理部長として資金調達の中心的存在だった 近藤利郎が倒れ、帰らぬ人となってしまう…。危機的状況の中で佐一郎にどんな運命が待っているのだろうか。

 何度危機的な状況に立たされようと、諦めなければ、人は何度でも起き上がることができるのだろうか。這い上がるために必要なのは、謙虚さと熱意。仲間のため、夢のためにどこまでも自分を追い込むことができる佐一郎のような人格者に自分は到底なれそうもないが、そこから学ぶべきことは多い。明日から仕事が頑張れそうなこの作品は苦しい今の時期にこそ、読んでほしい。


絶対絶命のアイチ自動車

住井銀行が融資などしてくれないだけでなく、アイチ自動車を嘲笑う

アイチ自動車を救ったひとりの女の存在…

今の時代にこそ読んでほしい作品
(C)本所次郎/光文社