荻上直子監督映画『トイレット』原案! 世界の片隅で暮らす人々の小さな奇跡!

小説・エッセイ

公開日:2014/5/3

モリオ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 光文社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:荻上直子 価格:1,080円

※最新の価格はストアでご確認ください。

 身の丈に合わない靴を履くから、靴擦れができる。その痛みをこらえるくらいなら、自分に合った靴を履きたい。ぴったりな靴で自分のペースで歩きたい。そう思わせてくれるような、自分らしく過ごすことの美しさを感じさせてくれる本に出会ってしまった。

 『モリオ』は、映画『かもめ食堂』の荻上直子監督の初の短編小説集。短編2作が収録されたこの本は、映画『トイレット』の原案となった作品だから、映画ファンも読まずにはいられない作品である。

advertisement

 つまらない日々を送る会社員が亡き母の形見の足踏みミシンで花柄のスカートを縫い始める表題『モリオ』。頼りない青年エウが女医のヨーコさんと末期ガンを患う猫シャチョウとの出会いや同棲生活を語る「エウとシャチョウ」。どちらの物語に登場する人々もみな何らかのコンプレックスを抱えている。世界の片隅で何をするにも恐る恐る暮らしている人達にスポットライトを当て、彼らが次第に胸を張って生き始めるさまを追っていく。

 たとえば、「エウとシャチョウ」の主人公・エウは、自分には何も取り柄がないと思っていた。10時間寝ないと記憶力が持たないし、友達も少ない。だが、彼には「猫に信頼され心を通わせる」力があった。その能力で彼は彼だからこそできる仕事を見つける。彼の恋人のヨーコさんも極端に大きさの違う耳がコンプレックスだったが、エウと出会うことで何かが変わっていく。

 理屈も言い訳もつけずに自分自身と向き合えば、道が開けるのだろう。表題の作品の主人公の青年・モリオは、誰のためでもなく自分のために自分が大好きな花柄のスカートを縫う。

「どうしてだろう。僕にもよくわからないんだ。うまく説明できない。説明できたとしても、ちゃんと伝わらない気がする」「ふうん。…つまり、好きなのね」

 同じアパートに住む少女に、なぜ男なのに自身が穿くためのスカートを縫っているのかと質問攻めにあってもモリオは言い訳せず、偽らずに自分の思いを伝える。好きなものは好き。弁解など要らないのだ。自分のペースや世界を大切にしながら、日々を丁寧に生きていく個性的な登場人物たちに心を揺り動かされる。

  彼らの葛藤は 世間からみたらコップの中の嵐に過ぎないのかもしれない。だが、それを乗り越えた彼らは今までよりもずっと輝いてみえる。自分自身を肯定することができれば、世界の片隅といえども、光が差し込んでくるのだ。


亡き母の思い出のミシンを譲り受けたモリオ

ミシンでなぜスカートを作っていたのかの理由に気が付き始める

スカートを穿いてみることを少女に薦められたモリオ

次第に少女と距離を縮めていく