タイトルに騙された人続出!? ラクして作家になる方法はあるのか?

小説・エッセイ

更新日:2014/5/12

努力しないで作家になる方法

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 光文社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:鯨統一郎 価格:648円

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 『努力しないで作家になる方法』そんなタイトルから、ラクして作家になるための方法論が書いてあると思った人もいるのではないだろうか? ラクしては無理でも、何かしら作家になるためのハウツーが書かれていると思った人も多いのでは? 結論から言うとラクして作家になるハウツーなど存在しない。本書はタイトルとは真逆に苦労を積み重ね、ようやく作家になれた人間の姿が描かれている。作家を志す私個人としても共感できるポイントが満載の1冊だ。

 主人公は伊留香総一郎。名前から想像する通り、作者の鯨統一郎の分身であろう人物。一応は小説という形をとっているが、作者本人の実体験を書いている。活字中毒の伊留香総一郎が作家を目指すところから『邪馬台国はどこですか?』で、デビューするまでが描かれる本作だが、その道のりは険しい。物語の始まりは住友浩がデビューするところから始まる。住友浩は伊留香と同じく雑誌『SFアドベンチャー』に投稿し、何度も優秀作を受賞していたライバル。伊留香も優秀作や入選作に何度も選ばれていた。

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 『SFアドベンチャー』には、伊留香、住友浩の他にも掲載される常連が何人かいた。その中からは多くの人物(今、現在活躍している人も多数)がデビューしており、伊留香はライバルからおいていかれる形となる。そんな落胆した中で「そろそろ、やめたら?」と作家を志すことを断念させるような妻の言葉……もちろん、作家になるまでの物語なのでデビューできることはわかっている。それでも読んでいて辛くなるシチューエーションだ。

 そんな中でも、伊留香は作家を諦めない。諦めないというと格好がいいが作家を目指すという夢にしがみつかないと生きていけないような人物になっていた。他の生き方を知らない伊留香はブラック企業で働き、会社をクビになり、借金を作り、妻には結婚してから服の一着も買ってあげられず、息子を幼稚園に入れることもできない。作家という夢を追いかけるばかりに、自分だけでなく家族にも苦労をかけてしまう。

 冒頭では妻は「そろそろ、やめたら?」などと発言しているが、何度もくじけそうになる伊留香を支えてきたのも妻であり、息子であった。度重なる苦悩のうえ作家を目指し、そして作家になれた伊留香の姿は感動させられる。

 私の周りにも作家を目指す人が多い。そして、作家になってデビューしていく人も多くいる。そんな人たちからデビュー後によく聞くのは「何度も諦めようとした」「ここまでやってきて良かった」「次の投稿で最後にしようと思っていた」なんて言葉。私から見れば明らかに才能がある。そんな人でもこのような言葉を吐くのだ。簡単にデビューできる人などいない。みんな努力を積み重ねている。何度も挫折を味わい、やめてしまいたいほど辛い日々を乗り越えた人ばかり。好きなことを自由にやって、いつの間にか作家デビューできてしまった。なんて気楽な人間は残念ながら、私の周りにはいない……ラクして作家になるなんて不可能と言い切ってしまってもいいだろう。

 他にやりたいことが見つけられない。今の夢を成し遂げないと生きている意味が感じられない。そんな夢を持っている人ならばこの本は共感できること間違いない1冊だ。


伊留香の好きな小説や映画もたくさん出てくる本作。本好きな人ならば楽しめるはず!

なんと宮部みゆきから選評をもらう機会が! この出来事も作家を目指す糧となる