瀬戸内海に浮かぶ「直島」にジェームズ・ボンドはやって来るのか!?

小説・エッセイ

公開日:2014/5/17

ジェームズ・ボンドは来ない (角川書店単行本)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA 角川書店
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著者名:松岡圭祐 価格:※ストアでご確認ください

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 2003年に発売された小説『007/赤い刺青の男』(レイモンド・ベンソン/早川書房)。この作品の映画ロケ誘致活動を行った香川県 直島はご存知だろうか? 直島は現在、アートの島として知られている。安藤忠雄さんの美術館。草間彌生さん製作のかぼちゃのオブジェ。空き家を利用した家プロジェクトと呼ばれるアート作品。と、たくさんの芸術が島を彩る。

 そんなアートな島で何故、007のロケ誘致活動をおこなったのか? その理由は『007/赤い刺青の男』に直島が登場するからだ。小説内ではG8の会場として描かれている。2002年から“ジェームズ・ボンドを直島に呼ぶ会”を設立し、映画ロケ誘致活動をスタートさせた直島の人々。署名活動を行ったり、007「赤い刺青の男」記念館を作成したり、“ボンドガールはうちや! コンテスト”と呼ばれるミスコンを開催、とさまざまな活動を行う。どれも数少ないながらも取材され、観光客が増え、と効果はあった。

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 また、原作者であるレイモンド・ベンソンからは映画化、ロケ地誘致に向け全面的に協力するとの手紙をもらい、007版権を管理するイアン・フレミング財団からは、記念館での商標使用許可をもらうこともでき、と映画ロケ誘致活動は順調かと思われた。しかし、実際のところジェームズ・ボンドが直島に来るにはいろいろな問題があった…。

 この物語は実話を元にしている。直島で007のロケ誘致を行ったのは実際に起こった出来事であり、登場人物は別として物語の大半は現実とリンクしている。実話ということからも分かるように『007/赤い刺青の男』は映画化もされず、ジェームズ・ボンドはもちろん来ない。しかし、来ないとわかっていても応援してしまいたくなるような魅力が直島の人々にはある。特に主人公の遥香は魅力的な女の子。映画ロケ誘致活動にも積極的に参加する、明るくて素直な高校生。直島を象徴するようなキャラクターだ。

 遥香は島が格好良くなって、コンビニやスーパーができて、電車も通って、美容院もできたらみんなが幸せになれると言う。格好良いものへの憧れを持つ遥香だからこそ、ジェームズ・ボンドや007の世界観にも憧れを抱き映画ロケ誘致活動にのめり込む。
年頃の女の子。普通ならば、何もない田舎の島を捨てて都会に向かって歩み出しても良いものだ。遥香だって都会に憧れがないわけではない。周りには東京へ出て行く同級生もいる多い中で、都会に行くよりも直島を良くしようと奮闘し、積極的に動く。そんな遥香の姿は輝いている。結局は失敗してしまう映画ロケ誘致だが最後には希望が残る。それは、遥香が頑張ったおかげ……。

 この他にも直島の人々は魅力溢れる人物でいっぱいだ。素直な人々の住む島だから直島と言われるように、素直で真面目な直島な人々はフィルム・コミッションであり、県であり、とさまざまな人々に振り回されていく。時には騙されることもあるし、大きな勘違いをしてしまうこともある。しかし、そんな困難も一致団結し乗り越える精神がある。007は撮影されなかったが直島の人々を主役にしてこの物語を映画化すれば、きっと素晴らしいものになるのではないだろうか。


香川県と岡山県に挟まれている直島

映画ロケ誘致活動を行う遥香に反対する母親。しかし、反対するのにはワケがあった