静かにゆるやかに再生していく、心と日常の物語

小説・エッセイ

更新日:2012/2/3

よしもとばなな もしもし下北沢

ハード : iPad 発売元 : THE MAINICHI NEWSPAPERS
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:1,400円

※最新の価格はストアでご確認ください。

お父さんが、死んだ。 茨城の山中で、車の中で。 遠縁だという知らない女の人と、一緒に死んでしまった…。

突然の喪失から立ち直ろうと、家を離れ、下北沢で一人暮らしをはじめた私。ようやく日常が回転し始めた、とおもったそのとき、突然、母親が転がり込んできた。

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同じ喪失、だけど異なる孤独。 下北沢の空気に包まれながら少しずつ再生していく、母娘の物語。

というのがあらすじなのですが、読んだきっかけは、挿画の大野舞さんの大ファンだったからです。毎日新聞での連載時で描いていた毎回のイラストを、iPhone版は掲載していると知って迷わずダウンロードしましたが、これはもう、想像以上に素晴らしい代物でした!

小説の中身は、もちろんのこと。でもこんなに、挿画と一体感のある小説をわたしはあまり読んだことがありません。新聞連載だったからか、1章1章が短くて、その合間に大野さんのイラストがフルカラーで掲載されているため、なんだか絵本を読んでいるような気持ちになります。

私ことよっちゃんの、静かに底の深い絶望的な悲しみ。それが日常のあちらこちらに潜んでいて、ふとした瞬間に顔をのぞかせる、救われている瞬間もあれば、這いあがれないほどに打ちのめされている瞬間もある、本当の絶望というのはたぶん、そういう日常に溶け込んだもので、きっと誰もが遭遇する可能性のあるもの。そこからの、ゆるやかで、やはり静かな、尖っているのに優しい再生に、読んでいるうちに自分が癒されているような気持ちになりました。よっちゃんやお母さんが体験したような悲劇でなくても、生きているだけで少なからず経験し蓄積していく痛みのようなものを。

そこに、またいいアクセントで大野さんのイラストが入るんです! 大野さんはとても物語性の強い作家さんなので大好きなのですが、まるで画集を手に入れたかのような喜びでした。この挿画が入っていることで、小説に、書籍版とはまたちがう味と深みが出ているので既読の方にもお勧めです。

大野舞さんのイラストが49点、すべてフルカラーで観られます! 一覧機能もあって、しょっちゅうとりだしては眺めています

目次の背景もかわいくて、すべてがデザインされている感じがかわいい