離婚した両親、東京での仕事に挫折した息子、結婚の間で揺れる娘。“深夜バス”が繋ぐ家族の再生物語【直木賞候補作】

小説・エッセイ

公開日:2014/7/10

ミッドナイト・バス

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:伊吹有喜 価格:1,599円

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 お盆や年末の帰省時に深夜バスを使うことがある。窮屈であったり、時間がかかったりと大人になるにつれて使う頻度は少なくなった。しかし、交通費を安く上げるために学生のころは毎回帰郷に使っていたし、今でも金欠の時には使う。小さな空間に同じ故郷の人々が一緒に乗り帰ると思うと、飛行機や新幹線とはまた違った魅力があるような気がする。そんな深夜バスの良さを感じられる本書は、運転士である主人公の利一とその家族の再生物語である。

 利一は地元民から愛される白鳥交通に勤め東京、新潟間を結ぶ深夜バスを運転している。16年前に妻とは別れ、現在は東京に一回り年下の恋人がいる。東京では恋人と過ごし、新潟では家族の去った家に一人で暮らしていた。

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 そんなある日、東京に住んでいた息子の怜司が突然、仕事を辞め帰って来る。怜司の背中はひどくただれており、血や膿までこびりついている。きっとストレスだろうと思うが理由がわからないまま一緒に住むことに。

 そして同時期に娘の彩菜も問題を抱えていた。友人と一緒にマジカルワンダーガールズというWEBコミックを公開。アヤニャンというキャラクターを作り、コスプレしてイベント活動、グッズ販売などを行っていた。一見、サイト運営は順調だが、結婚のことで相手の家族と意見が合わず、自分の将来像もはっきりとしないまま過ごしていた。

 家族3人がバラバラな方向を向いているなか、別れた妻の美雪が利一の運転している深夜バスに乗る。そして、そのことがきっかけで家族は一つにまとまりだす。

 それぞれの問題は単純そうに見えて複雑なものばかり。ひとりでは解決できなかったけれど、家族揃うことで本当は何が問題なのかをお互いが気付くことができ解決に向かっていく。お互いに良いことも悪いことも本音でぶつかり合えるのは家族ならでは。丁寧な筆致で語られる家族の心理は読む者を物語の中に引き込む。

 詳しくは本書を読んで欲しいが、物語の終盤に深夜バスの中で行われる美雪と怜司の会話も魅力的。別れや旅立ちなど深夜バスの中にいろいろなドラマが感じられる。

 本書を読むと新幹線や飛行機など便利なだけが良いというわけではなく、たとえ不便でも深夜バスの帰省も悪くないなと思わせてくれる。家族と離れて暮らしている人、故郷から離れて働いている人にはぜひ読んでもらいたい第151回直木賞候補の1冊。


深夜バスから空を見上げると白鳥交通の制服と同じミッドナイトブルーだったと美雪は言う。深夜バスの雰囲気が伝わるセリフだ

彩菜のコスプレ姿も気になるところ