山小屋とスキーと夫婦喧嘩…? すがすがしくも人間くさい山の画文集

小説・エッセイ

更新日:2012/2/3

山の画文集 晴れのち曇り 曇りのち晴れ

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 平凡社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:熊谷榧 価格:864円

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朝、最寄り駅のホームに立って右を見ると、晴れた日には遠くの山々が見える。左を見ると、都心のビルが小さく見える。

この景色が気に入って、この町に住むことに決めたのだよね。会社員だった頃はよく、「今日はあのビルの中で働くけれど、いつだって山に向かうことができるんだ」って心のなかでつぶやきながら通勤電車に乗り込んだものだった。登山の趣味はなかったくせに、山が見えるということが、日々の希望になっていたなあ。

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山に関するエッセイもよく読んだ。山の本を読むと、心が広々として、自然の清らかさ厳しさに触れて、深呼吸したくなる。山に集まる人たちもすがすがしい人たちが多くて…。

でもこの本はひと味違う。登場人物の人間くさいこと! なんせ著者みずからが「(山へ来る途中に夫と)なんの原因だったかなぐり合いの大喧嘩となり」だもん(ちなみにこの話の締めは「長い長い島々谷を、いちゃつきながら下るはめとなった」)。

ここには親切な人も出てくれば、ちゃっかりしている人もいる。やさしい人もいれば厳しい人もいる。人間模様は、下界と同様に濃厚だ。でもふとした描写に、それらをどこか遠くから眺める孤高の視線を感じる。にぎやかな交流の合間に、山で亡くなった人の話がたんたんと記されていて胸を突かれる。スケッチされた山々の力強さに圧倒され、雪原に点々とついた足跡がいとおしくなる。

山の人の眼で見れば、下界もまた楽し、いとおし、かな。さて、今日は山に向かうか、町に向かうか。

著者が若い頃に訪れた穂高や北海道、白馬の話がいきいきと描かれている

危険な場所でもスケッチブックを取り出して絵を描く。画家魂ってこういうことだなあと思う。ちなみに著者の父は画家・熊谷守一。文中に「モリ」と出てくるのは父のこと

ページを繰るうちにふいにあらわれる山のスケッチに、一緒に山を歩いているような気持ちになる

しおり機能を使って、じっくりと読み進めたい。ページを長押しすると、表示が出てくる (C)熊谷榧/平凡社