赤裸々な作家の日常生活エッセイ、のように上手に創作してるのかな

小説・エッセイ

公開日:2011/10/24

日々是作文(ひびこれさくぶん)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:山本文緒 価格:420円

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「プラナリア」や、「ブルーもしくはブルー」など、男女を問わず幅広く読まれて支持されている作家、山本文緒のエッセイをまとめたのがこの1冊。彼女の作品には、どうしてもダメ! 的な受け付けられない嫌な女が、道徳観のない女が、感情移入のできない女が沢山出てきますが、それは何故? そんな疑問がこのエッセイで…わかるわけがありません。

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どんな作家もエッセイを書くとき、少し緩んで、書くのを楽しみながら、「適当に」綴っているような感覚を受けますが、彼女はほぼ本能的に「山本文緒」を演じながら、このエッセイを綴っているようにも思えました。実際、エッセイのひとつ「『山本文緒』との和解」では直木賞を取ったことで、「山本文緒は架空の人格ではなく確かに存在するのだと認められた瞬間、私たちは和解し、融合した」という一節があります。これは彼女のちらりと見せる本音の部分かも。

たった一人で、机に向かって来る日も来る日の書く職業、自分との折り合いや接し方、自分の律しかたを最も必要とする仕事ではないでしょうか。作家の生活が赤裸々に語られ、「そうか~書くってかなりストイックな作業なんだなぁ」とか、「自分の思い出話をこうして『話』に仕立てるのも技量なんだなぁ」とか、横道にそれた感じで感心していましたが、読後、彼女の経歴をネットで検索してみて、うつ病で苦しんだり、離婚・再婚の経験があったりと、心も体も頭もいろんな経験がある人なのだと認識してみると、ピカソタイプではなく、ゴッホタイプの身を削って作品を書いてゆく作家なのかも、という印象を受けました。

そうして読んでみると、日々の自分を淡々と語っているこのエッセイが「建前」で、小説の中に描き出される情念の塊のような人物たちが彼女の「本音」のようにも思えてくる。実際、そうなのでしょう。創作の力量に優れた作家というのは、こうして上手く人をその「世界」に連れてゆけるのだなぁ、とまた違うところで感心。エッセイを読んだだけでは、まるで普通の「作家」の日常を演出。でも実は本当の深いところは見せずに、小説作品の中でのみ正体を現しているように思えました。

エッセイというのは、その作家と読者とを生活感と親近感でつなぐ架け橋の役割をしていると思いますが、山本氏のエッセイは、何か、「押入れの中」を見せたフリをしてやっぱり誰にも中身を見せない、印象。小説こそが、彼女の生きる場所、というのをいろんな意味で再確認する読後感です。

普通のOL→作家転向→直木賞受賞というサクセスストーリーが「サクセス」なのか、そうでないのか。「幸せ」なのかそうでないのか。一筋縄ではいかない作家のエッセイ。読みやすさは大です。


建前と本音を部屋の窓と押入れにたとえて。恋人になる人には「押入れ」の中を覗いてもらうときが来ると

さくっと入ったショートストーリーも、短いのに読ませますねぇ

小説は1冊目より2冊目からが大変と

私も引越し人生なので共感度大

「年々好きになるのは睡眠と入浴だ」にも一票!! (C)Fumio Yamamoto 2008