賢くてちゃんとした人ほど騙される、氾濫する詐欺の手口

公開日:2014/8/3

だましの手口 知らないと損する心の法則 (PHP新書)

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著者名:西田公昭 価格:※ストアでご確認ください

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 さて問題です。

 頭がよくて、はっきりものを言える、35歳独身の女性。

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学生時代は社会学を学び、差別問題に関心を持ち、反核デモにも参加していた彼女は現在、何をしているでしょう?

A. 銀行の窓口係をしている。
B. 銀行の窓口係をしながら、女性差別撤廃の運動にも参加している。

 読みながらわたしは自然に「Bじゃね?」と思いました。実際、Bを選ぶ人のほうが多いという心理学実験結果もあるそうです。(『だましの手口』より要約抜粋)

 でもこれが、おかしい。
たしかにBのほうが“もっともらしい”。でもよくよく考えてみると、二つの事象が同時に成立するBよりも、Aのほうが確率としては高い。こうした生々しい“リアリティ”こそが、マインド・コントロールや詐欺の仕掛けに影響しているのだと、著者はいいます。

 個人的な話をします。
あるとき、知人に誘われネットワーク・ビジネスの説明会に行きました。勧誘というより半信半疑だった知人の付き添いです。なんとなく彼女の言葉が持つ熱に、彼女らしくない違和感を覚えたので、参加してみることにした次第。

 ハナから疑っていたので、創業者の伝説を語りはじめたり、長時間(3時間以上!)の退出を禁じたり、大仰なことを言うわりには根拠がまるでなかったり、という細部をツッコミながら聞き流していたのですが、流れは見事。選択権をこちらに委ねているようで、その実、選ばせている。マインド・コントロールのお手本のようだ、と半分感心していた私は、不信感はあるはずなのになぜか最初より好意的になっていた。思えば、多少呑まれていたのでしょう。

 ただ、最後に演説をぶった人が、それまでの和やかな流れと異なり、やたらに扇動的な物言いで場を巻き込み、ある意味で場を引き締めた。かえって私は「いやだ!」と我に返ったのですが、その彼の言葉の中に、私が違和感を覚えていた知人の言葉もありました。

 知人はとても聡明で、現実的で、向上心も高い。しかも経済が専門分野。よりにもよってどうして彼女が、という人です。でも逆に、だからこそ呑まれる。私も、知らずに参加していたらうっかり信じていたと思います。話術も巧み。自尊心と選民意識をくすぐり、あえて自ら胡散臭いですよねと言い笑いをとることで距離を縮め、少しずつ不安や危機感を煽る。

 で、帰ってきて分析のため読んでみたのがこの本。そしたらまあ、出るわ出るわ。「ああっ、あれもそうだったのか!」「確かにそういう誘導あった!」「ぎゃーこわい!!」の連発です。

 わかりやすく読みやすい。あらゆるケーススタディもとっさの対処法も書いてあり、心理学的にも解説してある。なによりも著者自身が「ここで私が話していることも、鵜呑みにしないでください。一方的な意見を信じることそのものが危険です」と言っているところに好感を持ちました。

「そんな資産もないし、自分が特別なんて思ってないし、自分は騙されない」
そう思うかもしれません。でも、数千円から始まることもあるし、むしろ「なんだこれくらいなら」とのめりこみやすい。自尊心も選民意識も、特別な傲慢さではなくて、誰でも持ってる欠片をくすぐられるのです。だって「お得」はみんな好きでしょう?

 たとえば閉店セールだったり、ネットショップからのおすすめ情報だったり、私たちの周りにはさまざまな「勧誘」が溢れています。あまねく商売は突き詰めればだましのひとつ。詐欺との決定的な違いはそこに「悪意があるかどうか」。そして日常で極端な悪意に晒されていない限り、私たちはそれをたぶん、見抜けない。敵は振り込め詐欺ばかりではないのです。

 というわけで、読んでおいて損のない1冊です。


ぎくっとしますね

騙されるかどうかのチェックリスト

「こんなにあれば一つくらい当てはまるに決まってる!」? そう、だからこそみんな危ないんです

読みやすい文章にいちいち納得

心理学的な説得力も