現役高校生が書きドラマ化された、大人の心も揺さぶるリアルなデビュー作

唐突ですが、わたしはメロスが嫌いです。 あの教科書にも載っている太宰治『走れメロス』の主人公。後先考えずに王様に喧嘩を売り、勝手に親友を人質にしたあげく、「俺はがんばった」と親友を諦めようとした彼の行動に、中学生だった私はそれこそ猛烈に激怒しました。

だけどそれは、「わかるから」なんですね。そんなわかっちゃうような弱さや脆さをつきつけないで！ という一種の同族嫌悪。

なぜいきなりメロスかというと、この小説の主人公、桐谷修二にも、似た感情を抱いたからなのでした。

主人公・桐谷修二はまあ、小賢しくてイヤな奴です。

教室でうまくやるため、自分というブランドを徹底的につくりあげ、心の中では友達を馬鹿にし、自分はできている、つもりでいる。その能力を生かし、いわゆる激キモ転入生の野ブタを人気者に仕立ててやろうと影ながら動き始めた、はいいものの、うっかりミスに足元すくわれ、人気者になった野ブタをよそに一気に人気崩落…。

意外とみんなわかってるよ、ってことがわからずに自分だけが見渡せているような気になっている幼さ。肥大した自意識、うぬぼれ、プライド。頭でいろいろ考えすぎて、わからなくなっちゃってる本音。

文体こそは確かに「イマドキ」。会話に「（笑）」が入っていたり、とてもライトですが、描かれているのはだれもが通過する「若さゆえの途方もない痛さ」。この場合の若さはたぶん、年齢ではなく、とっくに社会人になっている「大人」も持っているかもしれないものです。

違うでしょ、もっと言い方あるでしょ。そこで素直になればどうにかなるのに、ああ、馬鹿者！ なんでそういうことしちゃうかなあ！

修二に向けていた言葉のすべてはたぶん、過去の自分に向けたものでしょう（いやもしかしたら進行形）。だからこれほどまでに感情移入ができて、修二の行く末が気になって、そしてやっぱり修二のことは大嫌いなのです。

文章はとても軽い。その読みやすさが、思い入れ（腹立ち？）を強くする一因かもしれません

こんなふうに、常に斜にかまえている修二に、いやなやつだなあと思いながらも、読む手を止められなかったのでした