山本周五郎の『ちいさこべ』を望月ミネタロウが“ザ・古風”に新解釈

公開日:2014/8/31

ちいさこべえ(1) (ビッグコミックススペシャル)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:Kindleストア
著者名:山本周五郎 価格:※ストアでご確認ください

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 昭和の小説家・山本周五郎の『ちいさこべ』を、『バタアシ金魚』や『ドラゴンヘッド』の望月ミネタロウが現代風に新解釈。映画化、舞台化、ドラマ化などがされている名作を、作者が大胆にリメイクした意欲作であり、望月ワールドの新境地が開かれています。

 演出や間、構図などで独特な空気感を描くことから“描写の天才”ともいわれる作者が「望月ミネタロウ」名義で挑むのは、奇をてらうのではなく、真っ直ぐな人情物語。工務店「大留」の若棟梁を務めるガンコな茂次と、孤児たちを引き取り育てるこちらもガンコなりつが、周囲のさまざまな感情に抗いながら意地を貫いていきます。現代風解釈でありながら、ときに“古風”ともいわれる日本人の芯の強さ、そしてなにものにも勝る美徳である人情が、心地よいくらいの直球で描かれます。

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 火事で両親を突然に亡くし、一癖も二癖もある大工たちをまとめ上げる若い茂次と、茂次はじめ周囲の人間に反対されても孤児たち(こちらも一癖も二癖もある)を見捨てないりつとの意地と意地のぶつかり合いであり、そしてもしかしたら同時に、原作のよさをいかに現代に伝えるかという山本周五郎望月ミネタロウのぶつかり合いともいえるかもしれません。

 どの登場人物も独自の正義観やゆずれないところを持っており一筋縄ではいきませんが、それは私たちが生きる現代社会でも同じ。現実では譲歩したり妥協したりして人はしたたかに生きていくものですが、身を削ってでも信念と覚悟に生きる茂次たちの様は、私たちに明日を乗り越える勇気を与えてくれます。

 王道ゆえにはずさないストーリーと、確実に心に染み入ってくるセリフや感情の数々。若棟梁のひげもじゃ姿が、不思議なことに、なんとも格好良く見えるのです。


人情と意地に生きるひげもじゃの茂次

火事で両親が亡くなり…強く見せていても、夜はひとり、静かに泣く

こちらもガンコなりつ。この出会いがどう転んでいくのか