海の男、故・ジャック・マイヨールとクジラの心通じ合う感動的瞬間を記録

小説・エッセイ

公開日:2014/9/26

クジラが見る夢

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android 発売元 : ボイジャー
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:池澤夏樹写真:高砂淳二/垂見健吾 価格:864円

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 水圧や酸素のことを気にすることなくイルカやクジラと一緒に海の中を自由に泳げたなら…そんな夢のようなことを実践した男がいる。「イルカと最も親しくなった男」との異名を持つジャック・マイヨールは、人類で初めて素潜り深水100mを越えた世界記録保持者であるフランスのフリーダイバー。ストイックに記録を伸ばすだけでなく、イルカと共に泳ぎ、偉大な生き物クジラと水中共演するという夢をもち世界各国の海を潜ってきた正真正銘の海の男。

 本書はジャックとクジラが遊泳する場面を見届ける役として訪れた、作家・池澤夏樹がカリブ海で過ごした日々綴るドキュメンタリーエッセイ。野生のイルカ・クジラと泳ぐことを目的としながら、どのようにしてジャックが素潜りの新記録達成を可能にしたのか。共に生活をしながら彼の中で渦めく思想を池澤がひも解いて行く。

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 人類はみな海から生まれたという言葉を証明するかのように、海中にいるジャック・マイヨールは海の生物そのもの。イルカと泳ぐシーンは実にしなやかで、人間というより少し細身なイルカが一緒に泳いでいる光景と言えばいいだろうか。その姿を見て美しいと思うのと同時に「こんな素敵な経験を私もしてみたい」という想いを読み手に引き立てさせることだろう。そして好奇心旺盛なイルカとの共演を終え、巨大な体と底知れぬ叡智を持つクジラを求め、さらに沖へと進んでいく…。

 イルカ、クジラを探す傍ら、シンプルながらも彼らが過ごす海上でのワイルドライフもまた誰もが羨む幸福な時間。どこまでも真っ青な海とカンカンに照りつける太陽。食の都、フランス出身だけにジャックが作る絶品パスタやロブスターの刺身は読んでいるだけでお腹がうなりそうだ。

 なぜ池澤が彼と親交があったかは定かではないが、ただひとつ言えることは小説家であり自然を愛する池澤と、イルカやクジラに深い愛情を注ぎ世界の海を潜るジャックは気が合うということ。同じ世界観を持ち、どこか共鳴し合う2人だからこそ池澤は世界新記録を樹立させたジャックのパワーの根源を探ることを許されたかもしれない。味のある池澤の挿絵、写真家の高砂淳二氏と垂見健吾氏の美しい写真にもぜひ、注目してほしい。


67歳にしてもなお、完璧な体格を維持しエネルギッシュに生きる

ジャックがスキューバでなく素潜りにこだわる理由とは

クジラはまさに海の哲学者と言えよう

根底にある自然回帰への想い。表情に出てしまうほどジャックはとくに強いようだ

日焼けした肌に深い皺、白髪の頭にチャーミングな笑顔。ひとつひとつがジャック・マイヨールの生き様を物語る

愛らしいイルカたちとの戯れは2時間近くも続く

巨大な体躯を優雅に動かすクジラの親子。そこにジャックが敬愛の眼差しを送る