死人の身代わりとして生かされる“ぼく”は、ひとりの少女のために刃を握り…

小説・エッセイ

公開日:2014/10/3

モーテ ― 水葬の少女

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:縹けいか 価格:463円

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 ライトノベルというより文学作品。そんな書評がネットで話題となっているのが本作、『モーテ ―水葬の少女―』です。「ぼくは死人の身代わりだ」そんな出だしの一文のインパクトは抜群で、一気に物語に引き込まれてしまいます。

 原因不明、治療法不明な「いつか必ず自殺してしまう」という、モーテと呼ばれる不思議な病気がある世界。モーテで子供を亡くした夫婦に、孤児を要望通りにカスタマイズして養子として斡旋する孤児施設。現代的な人身売買に近いため、施設は超閉鎖主義で陸の孤島と化しています。その施設を揺るがす事件は、語り部の“ぼく”が新しく入った時から始まっていたのです。

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 死人の身代わりになるため、かつての名前を失った“ぼく”。押し付けられた他人の人生にうんざりしていると、彼は尋常ならざるひとりの少女と出会います。切れた手首をそのままに、血を滴らせて佇む美しい少女、マノン。彼女はドゥドゥという自分のフォスター(担当養育者)に切られたものだと語ります。憤慨し、ドゥドゥについて聞いて回ると返ってくるのは驚きの返答ばかり。マノンに近づく男を片っ端から殺していく、マノン狂いのフォスター。そんな噂が蔓延しており、誰も自分からマノンには近づかない空気が施設の中に漂っていました。“ぼく”はその雰囲気に反発し、マノンと親しく会話をする仲に。やがて“ぼく”は、ドゥドゥの目に余る非道に彼の殺害を決意して…

 前半は“ぼく”の視点から語られており、寮の同室だった少年の死や、不気味なドゥドゥとの重苦しいやりとりなど、手に汗を握るサスペンスな展開が見所でした。しかし本作の本番は中盤から! 前半で“ぼく”視点で語らていたことが、他人の視点から見るとものすごい勢いでひっくり返ります。最初は、“ぼく”という情報が限定された“子ども”視点の話で、言ってみれば目隠しをして物語を追っていたようなものでした。が、中盤からはその目隠しが外され、“大人”側の視点から物語を追えます。“ぼく”の物語を追っていた時には気づけなかった子どもの残虐さなどが浮き上がり、ページをめくる手が止まらなくなります。是非とも時間を確保して一気に読んで欲しい作品でした。

 


ぼくは死人の身代わりだ。印象的な一文は、それだけで物語に引き込む力を持っています

名前を奪われ、押し付けられる他人に成り代わる生き方に、“ぼく”はなかなか馴染めない様子

手首から血を滴らせる少女、マノンとの出会い。全部を読み終わったあとでまたこの部分を読み直すと、まったく違う印象を持つことでしょう

泣いている“ぼく”と抱きしめるマノン。この挿絵もまた1回目と2回目で印象ががらりと変わります