迫る名古屋大空襲…焼夷弾の雨は刻々と近づく

更新日:2015/9/29

あとかたの街(1)

ハード : PC/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:おざわゆき 価格:540円

※最新の価格はストアでご確認ください。

 終戦からもうすぐで70年。第二次世界大戦を身をもって体験した世代が少なくなってきました。映画にしろ小説にしろ漫画にしろ、「戦争モノ」となればアレルギーがごとく拒絶感をあらわにする人もいますが、一番怖いのは「無関心」であり、「無知」である自覚すらないことです。なぜ戦争が起こったのか、戦争が始まるとどんな風になってしまうのか。身近に体験した世代がいるのならその人に聞いたり、近くに適当な方がいないのならばこうして漫画などで少しでも知ろうとすることは、知らない世代である私たちの義務なのでしょう。

 時は太平洋戦争末期の昭和19年(1944年)、所は名古屋。木村あいは国民学校高等科(現在の中学校)1年生。少しずつ生活が苦しくなっていましたが、あいの関心はもっぱらかっこいい女車掌さんに会ったことや、今日の献立のこと。戦争に参加しているという意識は持っていませんでした。そんなある日、父の夕飯に大きな卵焼きがでてきて驚きます。食料は配給製になっていたこの時代、この卵はどこから出てきたのか。姉と話すうちに、隣組の波多野(はたの)家で旦那さんの葬列があり、卵はそこでもらったものだと察します。翌朝、波多野家の一番鶏の鳴き声で目を覚ましたあいは、お手伝いのお礼に卵がもらえないものかと期待に胸を膨らませて波多野家へと向かいました。しかしあいが見かけた波多野の奥さんは、遺骨の前で無気力に座り込んでいて…

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 この他にもグラウンドで畑を作ったり、あいの家は四人姉妹で兵隊に出せる息子がおらず、そのせいで非国民という非難を受けたり、この間までは数えられるほどしかいなかった親のいない子が、すでに分隊ができるほどになってきた…など、当時の生活の様子が伺える描写が多くあるのも見所です。

 なお、この『あとかたの街』は作者であるおざわ先生の母の話が元になっており、他にもおざわ先生は父の話を元に『凍りの掌』という作品も書いています。これらはそれぞれ名古屋大空襲とシベリア抑留の話となっており、ある夫婦の戦争体験記録としてセットで購入してみるのも、読み方の1つかもしれません。


女車掌に目を輝かせるあい。まだ戦争は遠い島での出来事という感覚です

父が食べる卵焼きに思わず驚愕の大声が。ちなみにこの声、しっかり父に聞こえています

鶏を絞め殺したまま無気力に座り込む波多野の奥さん。一昨日との様子との違いにあいは呆然