陶芸のような、一品物の物語『海街diary』

更新日:2015/9/29

海街diary 6 四月になれば彼女は

ハード : 発売元 : 小学館
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著者名:吉田秋生 価格:※ストアでご確認ください

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 各話のタイトルが印象深い、『海街diary』です。4姉妹が古都鎌倉の家で暮らす話で、第1巻が2007年、現在6巻まで刊行されているのですが、物語が始まった当初、中学1年だった主人公のすずちゃんは、未だ3年生を迎える直前までしか進んでいません。『名探偵コナン』みたいに毎回ゲストキャラが出て、主人公たちはあまり変化しないというやり方ではなく、無尽蔵にキャラクターが増えるわけでもない。4姉妹とその周囲の人々からフォーカスが外れることはなく、またすずちゃんを中心にみんなが成長していきます。『海街diary』は、量産不可能なタイプの作品なのです。

 物語は、次女の佳乃さん(信用金庫のOL)が男と寝ているシーンからはじまります。そこへ長女の幸さん(看護師)から電話がくる。その内容がまたすごい。“ずっと前に離婚して出て行ったお父さんが死んだらしい”という知らせ。なかなかヘヴィーです。

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 ずっとこの調子なのかなと思っていたら、物語は彼女たちの父の葬儀を境にぐるっと変わる。葬儀で会った、腹違いの妹にして、主人公のすずちゃんの登場です。幸さん、佳乃さん、そして三女の千佳さん(スポーツ用品店勤務)にとっては、自分たちの家庭を壊していった女の子どもであるはずのすず。けれどそのすずちゃんも実の母を亡くし、葬儀の時点では父の再々婚相手と暮らす日々。

 そして4人は鎌倉で共同生活をはじめます。鎌倉に来てサッカークラブに入り、頭角を現すすずちゃん。エースとして登場し、その後複雑な事情を抱えていくことになる多田くん。そんな多田くんを好きな美帆ちゃん。すずちゃんが気になる風太くん。彼らの青春模様も素晴らしいのですが、学校とその周辺だけで、好きだ嫌いだというだけの狭い話ではないのです。そのサッカーチーム、オクトパスの監督は幸さんと同じ病院に勤務する人だったり、用具で関わりのある用品店が千佳さんの勤務先だったり。鎌倉というコミュニティの中で、世代も立場も違う4人が周囲の人たちと密接に関わりながら暮らしていくところが魅力です。

 最新刊では、いよいよすずちゃんが高校受験を前に、物語の軸をなすサッカーを続けるか否かという壁にさしかかります。最初にも書いたように、量産タイプの作品ではないです。「どうせ続けるんだろ?」という読みは通用しません。そこがまた素晴らしい。


電話を取りに行く三女の千佳さん。古くても、4人の大切な家です

長女の幸さん。しっかり者で、すずちゃんを鎌倉に呼んだ張本人

そしてすずちゃんと、佳乃さん。相続トラブルが多い中、頼れる信用金庫のOL

男の子に混じってサッカーをするすずちゃんにも、高校受験を前に転機が訪れる…

6巻ではいよいよ、すずちゃんに転機が訪れます