ノスタルジーと豊かな情感と確かな生活の手ざわりを感じる極上の読み心地
公開日:2011/10/28
父の詫び状
ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android | 発売元 : 文藝春秋 |
ジャンル:小説・エッセイ | 購入元:eBookJapan |
著者名:向田邦子 | 価格:420円 |
※最新の価格はストアでご確認ください。 |
向田邦子のエッセイを読むと、メゲる、かなり。巧すぎちゃって。文章を書いて口に糊している輩なら、いくらかは同じことを感じるのではないか。
ただし嫌みではない。ここが沢木耕太郎と違うところ。だから辟易せずにすむ。感情移入できる。やんなっちゃいながらもページをめくっていくことさえ可能だ。奇跡みたいな話だが、巧さの出てくる目の高さが私のようなへっぽこな生活人と同じところにあるので、スタイルに打ちのめされながらも、内容には魅了されてしまうことになる。それで今夜も向田邦子を読む。いやなんだか、書き手の思うつぼという感じだが。
しかしこの「父の詫び状」(彼女の第一エッセイ集)から立ち上ってくるさまざまな情緒の、匂やかさったらないもんだ。みずからの家族をめぐる、戦前戦中の体験を思い巡らし、しなやかな筆づかいで書きつづった一篇一篇に見られる、生活感のきわめて具体的な手ざわりや粒だった情緒のくっきりした味わい、自分の子供時代もこうだったとほとんど錯覚しそうになる。
子供であった向田自身や兄弟姉妹の言動が生き生きと鮮やかなのにビックリしていると、父親や母親の造形までちゃんと息をした人間としての確かさで刻まれていて、凄いなあと。記憶力が凄い。のみならず記憶という映像を言葉に置きかえる能力が凄い。そしてここぞというシーンにパチッとその印象的だった絵柄をはめ込んでみせる構成力が凄い。あんまり凄いから、悔しいなあと思っていてもつい泣かされちゃう。
表題作「父の詫び状」では、ノスタルジーや、子供が親に抱く情感や、親の子供に対する態度や、もろもろがスウッと読み手の中にすべり込んできて、自分ももう一度家族について考えてみようかなという気にさせられるお話。ちょいとステキです。
全部で24本のエッセイが収録されています。
エビをもらった話から始まるが、エピソードのたびたびの飛躍と、ラストでそれらがスカッと一所へ収まる快感はたとえようがない
4ページ目から肝心の子供時代の話題へ
汚れた敷居を掃除している「私」を後ろから見ているこのときの父の描写は、見事 (C)Kazuko Mukouda 2003