映画化、テレビ化でも話題。「母性」とは、「家族」とは何かを問いかける物語

小説・エッセイ

更新日:2012/3/2

八日目の蝉

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:角田光代 価格:616円

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橙の夕日、鏡のような銀の海、醤油の甘い匂い…見たことも行ったこともない小豆島に、今、自分がいて、海を見ながらその空気を吸っているよう…そんな気持ちがわき上がって来たのです。

だから、この作品が、映画化、テレビドラマ化されたと聞き、ひどく納得できました。描かれる景色があまりにもヴィヴィッドに頭に浮かんで、読みながら、同時に頭の中でこの物語の映像がビデオで流れているような、そんな錯覚に陥りそうなのですから。

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不倫相手であった秋山丈博との間にできたお腹の子供を中絶したせいで、二度と子供を生めない体になってしまった(と思い込んだ)野々宮希和子。丈博と妻との間に生まれた赤ちゃんをひと目見ようと家に忍び込んだのだけれど、とっさに子どもを連れ去ってしまう。そこから始まる逃亡の、最後に行き着いたのが小豆島。

物語は、希和子が誘拐をするプロローグに始まり、逃亡生活を描く第一章、誘拐された赤ちゃん薫(本名/恵理菜)が大学生になってからの物語を描く第二章の三部から構成されています。

・家族とはいったい何なのか。

・生みの親が理想的な存在でなかったとしても、やはり親は親で、あふれかえるほどの愛情をもって育ててくれた人でも、それが誘拐であったとしたら、相手をただ憎むしかないのか。

・女性にとって子どもを産むこと、産まないこと、産めないこと、そこに優劣はない(あってはいけない)はずなのに、あるように感じるのはなぜなのか。

・母性とは、人間に元々備わっているものではなく、よくいわれるように、子どもを育てることで培われていくものなのか。

・そもそも母性とはいったい何なのか。

読み進めるうちに、たくさんの質問が投げかけられてきます。

誘拐という、日常のわたしたちの暮らしからはかなりかけ離れた「事件」が物語のベースになっていながら、誰もが切り離すことのできない家族、母について、作者はわたしたちに問いかけてくるのです。

そして読後また、その答えを探したくて、再度読み返してみたくなる。 これはそんな小説です。

巻末に採録されている著者、角田光代さんのロングインタビューも読みごたえあり