これで420円は安すぎる、お得すぎる、の吉田修一作品

小説・エッセイ

公開日:2011/10/30

最後の息子

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:吉田修一 価格:420円

※最新の価格はストアでご確認ください。

芥川賞作家や作品を避けて通っている方、多くないですか?
大衆小説が対象で、どの受賞作品を読んでもほぼ楽しめる直木賞と違い、芥川賞作品には普通の頭の私には「?」という疑問詞しか浮かばないこともしばしば。文字が好きだし、どんな作品でもなんでも読む雑食活字中毒系読書をしているし、「偏見を持たずに読書をしよう!」と心がけているにも関わらず、常々純文学のなにかとっぴな設定や登場人物の素っ頓狂な会話がどうもしっくりこず(年取った証拠)、しばらく読まずにきています。

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が、吉田作品は別格に面白い!!
この表題「最後の息子」も、一般読者の日常生活とはあまり接点がないような設定。
新宿に店を持つオカマの閻魔ちゃんと、彼に愛されて同居している僕。K公園のゲイ狩りで「大統領」が殴り殺されるという事件から、始まるこの物語。最初と最後のシーンがオーバーラップするその手法が清らか。「どうなるの?」「なんでこうなるの?」「なんでここで終わっちゃうの??」というアンニュイ不思議な純文学ではありながら、吉田氏の文章の美しさと研ぎ澄まされ方は他の純文学作家に抜きん出ていると思います。

設定や人物にまるで共感を覚えないのに、なぜかそのワールドへ引き込まれてしまうのは、彼の文字世界の「網」にかかってしまうから。そう、緻密で繊細なレース編みのような、魅力。薄くてさらりとしているように見えて、その目がひとつひとつ交差し、模様を作り出している…というような印象です。それは、本書の2作品目、九州の男3人家族を描いた「破片」でさらに確信し、3作目、高校水泳部のひと夏を語る「WATER」でほぅ、とため息となる感慨。

透明感溢れる筆致、長崎出身の作家が操る九州弁の巧みさ。デティールの描写のリアル感。WIKIによると、「2002年、『パレード』で、第15回山本周五郎賞を受賞し、同年には「パーク・ライフ」で、第127回芥川賞を受賞。純文学と大衆小説の文学賞を合わせて受賞したことで、山田詠美や島田雅彦と同じ系統のクロスオーバー作家が現れたと話題になった。」とのことで、「クロスオーバー」という形容詞に納得でもあります。純文学が操る言葉の重みと美しさ、高みを保ちつつ、大衆的なストーリーを描くというのが吉田氏作品の特徴でしょうか。

これで420円は安すぎるというか、読み終えて、パチンコ台がどーっと開くようなお得感で一杯。お勧めです。


『今の世の中、物足りなさを味わうっていう風雅がないんだ』・・・端的でいいひと言

「あら、矛盾してるからオカマなのよ」とオカマにいわせる吉田氏。このせりふはピカイチかと

性描写も抑制が効いていて、読み心地のよい上品度

母を洪水で亡くした男3人家族が海辺でおにぎりを食べるシーン。素晴らしい描写

こういう場面とせりふをさらっと入れるのも、素敵 (C)Shuichi Yoshida 2008