「冤罪の過ち」には心理学的な原因が。それは被疑者を大きく左右する

更新日:2011/9/12

取調室の心理学

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 平凡社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:eBookJapan
著者名:浜田寿美男 価格:540円

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発達心理学、法心理学を専攻。法廷に提出された自白や目撃など供述証拠が真実かどうか、弁護側から鑑定依頼を受ける供述分析の専門家・浜田寿美男の本である。個人的に心理学を大学で専攻していたので、興味深かった。ただ私の場合は基礎行動心理学、動物心理学だったが…。
  
刑事裁判において、人間の過ちは大きく二つある。

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一つは本当の犯人を無実だと間違って、見逃してしまうこと。二つ目は犯罪に関係のない人間を間違って、罰してしまうこと。冤罪である。現在では、「十人有罪者を逃がしても、一人の無実者を罰してならない」というのが法理として説かれている。無論冤罪は作ってはならない。だが遺族や被害者の心情を考えれば、有罪者を逃がすことに抵抗はある。ゆえに刑事裁判の事実認定は、この二つの過ちの間で揺れてきた。その過ちが起こりやすい現場が実は取調室なのである。
  
冤罪のケースとして挙げられるのが、無実の人間が、虚偽の自白をしてしまう、あるいは、目撃者が間違った供述をしてしまうケースである。無実の人が、自分が犯人だと嘘の自白をするようなことが現実に起きるのか? 起きると断定している。日常では、人間は自分を不利にする発言はしない。だが逮捕され、取調室で取調官に囲まれた時、常識を超えることが起きてしまう。無実の人間でも「もし自分が犯人だったら、どうするだろう」と考えてしまう。取調べの最中、想像をめぐらし、自分が犯人になったつもりで、犯行ストーリーを作ってしまう。また記憶は常にあいまいであり、無数の空白があるばかりでなく、残された記憶がしばしば、自分の記憶だと偽り、新たな嘘を作りあげてしまう。そして取調室から出た時には、「私がやったのだ」と犯人のようにふるまってしまうのである。
  
また取調室には外からの情報が入ってこない。その中で「おまえが犯人だ」だと一方的な情報のみ晒された時、そこで結果的にマインドコントロールと同じ構図が出来上がってしまう場合もある。これらの行動は人間の心理が原因としか言えない。
  
取調べをする側も考える点はある。人間は、疑わしいという中途半端な位置に留まるのが、ひどく苦手なのである。憎むべき犯罪を許せないという強い想いからも、相手を犯人として断定しがちなのだ。それほど「疑わしい」というのは、心理的に不安定な状態なのである。
  
取調室の中にいるのは当然人間である。ゆえに、心理的な作用が働くのは、人間らしさだからなのかもしれない。

目次。ひとつの事件を多方面から分析していることがわかる

序章。刑事裁判の現実が記されている

第1章。実際の事件を判例にしている

実際の事件の供述なので、判例としては申し分ない。詳細に分析している

具体的な新聞写真も記載されている (C)浜田寿美男/平凡社