お化け絶対いるもんね、の鏡花センセイがぶち上げた二大傑作戯曲

小説・エッセイ

更新日:2012/3/2

夜叉ヶ池・天守物語

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 岩波書店
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:泉鏡花 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

ダ・ヴィンチ幽を待つまでもなく、怪談や妖怪の怖い話や妖しい話のブームは霊を見るより明らかです。火ですけどね、ほんとは。

そんなときに、泉鏡花を古いむずかしいややこしいカビの生えた小説だと勘違いしてたら大損なわけです。もったいなすぎる。だって鏡花は、妖怪がほんとにいると信じてた最後の日本人ていわれてる人なんですよ。だからその作品も、ほとんどがお化け話。しかも猛烈に真に迫ってる。そりゃ信じてたんだし。しかも鏡花、見てるし子供のころ、何回も。

advertisement

この本に収められてるのは「夜叉が池」と「天守物語」という二作品でして、ただちょっと戯曲なので、つまりお芝居の台本形式なので、読み方に慣れるまでワンステップあるかと思うのでありますが、頑張れ! すごいことが書いてありますのよ。

龍神の封じ込まれているという夜叉が池の下流で日に三度、龍がよみがえらないように鐘をついて暮らしている男と妻。その言い伝えを信じない村人たちとの間に確執が生まれ、やがて雨乞いの生け贄につれさられた妻の自害を知った男が、掟を破り鐘を水底に沈めると、たちまち雷雲が轟き、水はあふれ村は水底へと呑み込まれるのであった。これ「夜叉が池」のお話です。

なんのドラマかというと、鬼神の言い伝えを信じるひたむきな心と、なんの見返りもなくても自分に掟を課してどこまでも守り抜こうとする気高い魂、そういう人としての生き方の美しさをかげろうのようにゆらめかせる作品なんですね。

「天守物語」のほうも、播州姫路城の天守に住まう妖怪富姫と、殿様はじめ配下一堂の心卑しき侍たちに追いやられてきた清廉な鷹匠・図書之助が、一瞬にして恋に落ちる。あとは下賤なくせに数だけはたのむ城のものたちと、二人の闘い。もちろん勝敗は目に見えています。が、この作品のすごいところは、最後の最後になって、もう何が何だか誰にもわからねえ、脳みそひねり返りそうな飛んでもないことが起きるところでして、それこそもしかしたら鏡花がこの世の人じゃなかったんじゃないの、と不思議な気持ちになってくるのはこういう箇所なんですね。

それと、鏡花文体といわれる、独特の文法を壊しちゃったような言葉のリズムも、もちろん本作で楽しめます。

「夜叉が池」 龍神を封じ込め、日に三度鐘をつきふたたび現れないようにする掟

「夜叉が池」 魑魅魍魎妖怪が、ぞろぞろお出ましになる

封じられていたのは龍神白雪姫、もうかなり出て行きたくなっちゃってるく

勇ましくさわやかな心根に、富姫はぞっこん

なんかとうとう二人は目も見えなくなっちゃって、あとは差し違えてというばかりの時、突如なんだか分からないような不可思議なことが起きるのだ (C)岩波書店