小説だが、これは既に映画! 小路幸也のステキ過ぎる実験に乗ってみる
更新日:2012/3/2
「東京バンドワゴン」シリーズでお馴染み、小路幸也の快作。
そもそも現代的な叙情小説を書かせたら天下一品の作家なのだけど、この作品に関してはその色を残しながらかなり冒険している。全篇にわたって実験が行われている感じ。
死期の迫った有名俳優に持ちかけられた「最期の作品」の製作企画。すでに散り散りとなった家族を呼び寄せ、3週間を同じ屋根の下で過ごし、その映像を撮る。そしてその映像を、後日映画として公開する。作品に参加したのは、元妻、腹違いの息子兄弟が二人、弟の婚約者、そして本人。全員が名の通った俳優・女優である。
この記録映画撮影の様子がリアルタイムで、出演者それぞれから淡々と語られていく。大きな事件や事故の類はほとんど起こらず、時間だけが静かにゆったりと流れていく。
変化の乏しいダラダラとした作品、と誤解されそうだが、それは全く違う。5人の名優が織りなす、レベルの高すぎる「家族劇」。その撮影に立ち会っている、という疑似体験度合いがもの凄く、最初から最後まで全く緊張感が途切れない。こんな小説、今まで読んだことないぞ…。
そしてこの電子書籍版、嬉しいことに作品にピッタリマッチした雰囲気抜群の扉絵が各章の冒頭にちゃんとある。パブリの小説はこれまでテキスト中心のモノしか読んでいなかったのだけど、この構成は非常に好感が持てる。
個人的には紙の本・電子書籍を問わず、ここ数年でベスト5に入る作品。まずは読み始めてみるべし。知らないうちに映画の撮影を俯瞰で見ている自分に気付くことと思う。そして最終的にはこの映画、「ラプソディ・イン・ラブ」の公開が本当にあるのではないか? と勘違いしてしまえば完璧だな、きっと。
冒頭はいきなり監督の談話から。徹底した世界観が見事
章が変わるごとに管弘志氏による扉イラスト。文章に完全にマッチしている
語り部は各出演者がランダムに。チャプターは「cut」で表現されている
目次はもちろんハイパーリンク。しかしここ、誤タッチが多くなるので、まめにしおりを設定することをオススメします
この作品のオススメセッティング:縦組み・文字サイズ小・秀英横太明朝M・文字色黒・背景エンボス