国民最後の命の砦。人生と向き合う、生活保護ケースワーカーの物語

更新日:2015/2/6

健康で文化的な最低限度の生活

ハード : 発売元 : 小学館
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著者名:柏木ハルコ 価格:※ストアでご確認ください

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 “迷惑をかける”というのは良いことでしょうか、悪いことでしょうか。「文字通り相手に迷惑をかけるのだから、悪いに決まっている」と思うのが大多数かと思います。故意に周囲へ迷惑をかけるのはもってのほかですが、不可抗力でもなるべくなら“他人への迷惑”は避けたいものです。できる限り誰にも迷惑をかけずに、立派に自立して生きていく、というのが理想であります。

 でも、それは本当でしょうか。本当に本当に、立派な美徳でしょうか。ここにひとつ、重大な見落としがあるように思うのです。迷惑と助け合いの線引はどこにあるのか、という点です。基本的に、我が国では迷惑をかけない事は美徳です。しかしそうすると、つまり「迷惑をかけるなよ」と思っている人が多数を占めているともいえます。もっと言えば、「出来ることなら他人を助けるような面倒はゴメンだ」という考えが基本的には大多数だといってもいいかもしれません。そんな“立派”を暗に要求する周囲は、果たして本当に立派なのでしょうか。人に助けを乞うことはそんなに良くないのでしょうか。本作を読めば、そんな日本の美徳が持つ明暗がハッキリと感じ取れるはずです。

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 舞台はとある街のお役所。ちょっと天然で空気が読めない主人公・義経えみるは福祉保健部生活科へと配属され、右も左も分からぬまま、生活保護のケースワーカーとして働くことに…。「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文の元に制定されている生活保護。国民の最後の砦とも言われる場所で、彼女はワケも分からず110件という様々なケースを担当することになります。重圧に困惑しながらも、えみるは体当たりでそれぞれの人生にぶつかっていくのでした。

 昨今、何かと話題にのぼることも多い生活保護を扱った本作は、現実のケースワーカーの実態をドキュメントしていきます。そして、浮かび上がってくる“迷惑と助け合いの線引き”。ほとんどの受給者は、どこか保護を受けることを恥じており、鬱屈する人も少なくないのです。責任を感じ、そこから脱しようとますます自分を追い詰める人も登場します。そこでふと、最後の砦である助け合いとは一体なんなのかと思うのです。

 近年では、ますます孤独死や餓死などが増えていると聞きます。制度や法律のせいもあるのかもしれませんが、道徳の歪みもまた重大な問題なのかもしれません。そもそも母親に迷惑をかけて生まれてきた人間ばかりのはずです。つらい時には迷惑をかけて生きたっていい。本作は現代社会に鋭くメスを入れながら、そう教えてくれるはずです。

 


国民最後の砦!

抱える人生は、110件

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