小説の世界が著者の現実を侵すヘンテコきわまりないSF

小説・エッセイ

更新日:2011/11/24

亜空間要塞の逆襲

ハード : PC 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:半村良 価格:388円

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同じ著者の「亜空間要塞」とともに70年代SFの奇書といわれている小説です。
そうやって亜空間要塞事件も終了し、どうやってかは「亜空間要塞」のレビューを読んでいただくとして、とりあえず作者の半村良も筆を置いたのであります。

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自宅近くの豪徳寺あたりを散歩しながら、紅葉を愛で、1歳になった我が子のことを考え、それでも万年筆のキャップをとって新しい原稿に取りかかる日々、時には麻雀仲間が集まる予感に気もそぞろ、そんなとき見知らぬ客が訪ねてきた。

読者のひとりだろうと話し始めると、自分は吉永佐一だという。「亜空間要塞」の登場人物だ。細部は違うが私たちは「亜空間要塞」に行ってきたのです、しかもそのことは1年も前にあなたがあの本に書いてしまっている、とそんなことを抜かすのです吉永は。いよいよ妖しくなってきた。ほんと違うのは僕らは3人組で、そういうからには半村自身も含めた4人組にやっぱりなって亜空間要塞への冒険がここからはじまるという寸法であります。

この作品のヘンテコなところは、半村がみずからの作家生活を綴る私小説のような形をとりながら、実際の諸作家の名前や受賞した文学賞の逸話などを並べていく中へ、「亜空間要塞」の宇宙人から「なんで俺たちのことを知ってた」などと脅されるエピソードを巧みに織り交ぜて、なんかもう何がほんとだか分からなくなっていく味わいが格別です。もしかしたら半村良って根っからこういう妄想的な日常を生きてるのかしら、なんて思えてくる。

と、思っているうちに、物語はどんどん幻想の中へ入り込んでいく。一番の敵の名が「ヴォネガット」だったりするあたりは妙に納得しましたが、お話のタッチはヴォネガットというよりディックの感じで加速していくのであります。

本作にも、問題の大どんでん返しがあります。寛容が肝心。


そぞろ歩きながらしきりと自分の仕事を内省する「私」。ほとんど私小説のはじまり方だ

麻雀仲間が集まってくるのに浮き立つ「私」。そこへ小説「亜空間要塞」の登場人物は私だという男が訪れる