中毒注意! タイトルの可愛さに惑わされるな!

小説・エッセイ

更新日:2014/12/17

夕焼けとにょろり

ハード : 発売元 : Amazon Services International, Inc.
ジャンル: 購入元:KindleStore
著者名:寺澤 晋吾 価格:※ストアでご確認ください

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「夕焼けとにょろり」という摩訶不思議なタイトルに惹かれ、思わず購入した作品。

人間に寄生する”舌”が”にょろり”で、いわゆるパラサイトモノ。こうなると、どうしても岩明均の「寄生獣」、ミギーが思い浮かんでしまうのだが、こちらの方は雰囲気があまりにも違う。

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主人公のフリーター・河辺省吾は、デブ・剛毛・ニキビ面、あげくにワキガ。それでなくても冴えないのに、童貞喪失時のトラウマから「どもり」まで併発する。楽しみと言えば酒に酔うことくらい。絵に描いたように絶望的な毎日を過ごしている河辺の日常が、ある日突然変わる。それも劇的に。

河辺の意志に関係無く喋り始める”舌”。人格(?)を持つ”舌”はそのまま河辺の身体に寄生し、どもりの河辺の代わりに流暢で魅力的な言葉を発する。のみならず、河辺の容姿・雰囲気すらもを変えていく。

“にょろり”と名付けられたパラサイトによって、河辺の生活・・・いや、「性生活」は激変。女性はもちろんのこと、男性とまで淫らなセックスを繰り返す毎日は、心の奥底で河辺自身が望んでいたもの。にもかかわらず、何かが少しずつ河辺の心から剥がれ落ちていく・・・。

冒頭の一人称語りにまず面食らう。「どもり」の主人公の吐き出す言葉は、例えモノローグであったとしてもどもったまま。ある種の不快感を伴うのだが、文章の見た目自体がリズミカルであるため、何故か不思議な高揚感すら漂う。

酔っ払った「にょろり」が語る言葉も同様。句読点すら無視した言葉の羅列が、マシンガンのように放たれる。かつてTHE STALINの遠藤ミチロウが歌った、「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」を彷彿とさせるアシッド振り。この手の感覚はスマートフォンの横書き文章で見ると更に臨場感が増すのが不思議。

ストーリーも良い意味でかなりハチャメチャ。出だしこそ軽い雰囲気で始まるものの、思い切ったエロ、かっちり読ませる叙情的な部分、そして明らかに一線を超えてしまっているグロが、無理を承知で同居する。以前にこういう手法の作品を読んだ経験は、無い。

作者・寺澤晋吾氏の事は失礼ながら全く知らなかったのだけど、かなり名の通ったミュージシャンであり、ポップアート方面でも有名な人らしい。

そういえば文中にはレディオヘッド・コールドプレイ・ビョーク・ニルバーナ・オアシスといった90年代後半から2000年代前半に活躍したアーティストの名前がチラチラ現れるし、作品全体にはサイケデリックな印象が常に漂っている。バックボーンを知った上で改めて読み返すと、その音楽的・絵画的なアプローチが理解出来る気がする。もっとも、そのスタイルはかなりアバンギャルド、そしてオルタナティヴ。

その手の世界が好きな人は、きっとハマって読める。飛ばないように注意!