密告、連行、逃げ場なし! 強烈な世界を描いた伊坂幸太郎の新刊『火星に住むつもりかい?』

小説・エッセイ

更新日:2015/9/29

火星に住むつもりかい?

ハード : 発売元 : 光文社
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著者名:伊坂 幸太郎 価格:※ストアでご確認ください

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 SFやファンタジーを想像してしまうこのタイトル。第1章は相当に強烈です。描かれるのは、近未来のような、現在のような不思議な時間軸。「平和警察」と呼ばれるナチスのような集団が、理由のあるなし関係なく、一般人を連行し、拷問し、有罪と見なされれば公開処刑の横行する世界。夫婦、家族、友人同士が疑心暗鬼になり、誰ひとり信じられないような人間関係。残酷な斬首も、ローマ時代のグラディエイターのような一種エンターテイメント性を含んで来て、集団で狂気に陥って行く様がよく描かれています。

 読んでいて、ぞっとしたのはイスラム国を思い出したから。多分、描かれたような状況が現在でも存在する国々は沢山あって、信じられないような悲劇にも私たちは目をつむっているのではないかと。辛い第1章を終えると、ぐっと、伊坂ワールドらしくなってきます。平和警察の横行に「正義の味方」が現れる。どこの誰かはもちろん分からず、不思議な武器と、電光石火の技で無実の一般市民を助けて行きます。対する平和警察は、彼の登場で明らかに悪者になってしまった。読者は正義の味方が誰なのかの謎解きとスリルを平和警察の真壁鴻一郎と一緒に体験してゆく、という微妙な立ち位置を強いられるのも、心地よい驚きです。

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 章ごとの展開は、何かこう、PCのウィンドウを開くような感覚。視点を変えて行くことでがらりと印象をかえながら、どのウィンドウも開いておいて、最後に驚くような「まとめ」がある、という巧妙な作り。携帯で読んで985ページ。読み応え満点です。


あっけらかんな会話に見えて、戦争心理を彷彿させる怖さ

人の命が重さを持たない世界。日本では想像できない状況だけど…

「人間が人間らしく振る舞えるのは、群れていない時だけだ」はこの物語を集約するフレーズかも