ロンドンを見物した最初の日本人、カメハメハ大王に会った日本人。ロマンぎっしりな学術書

更新日:2011/9/12

日本人漂流記

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : インタープレイ
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:eBookJapan
著者名:川合彦充 価格:648円

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中学生の頃から、『漂流記』が大好きです。ことに日本の近世の実在した漂流記に、強く強く惹かれてきました。
  
有名なのは、井伏鱒二の『ジョン万次郎漂流記』や井上靖の『おろしや国酔夢譚』。鎖国の時代に、異国へ流れ着き、言葉もわからないまま人生を運にゆだねる…。今のように情報のまったく無い時代、外国人の文化や性質を彼らはどう見たのか、考えただけでもどきどきするものです。

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不運が好転し、海外へ出たなりの知識や経験を持ち帰った漂流者もいれば、現地妻を娶り永住した人。悲惨なのは、手を尽くして帰ったのに、長崎奉行所の厳しい取調べに絶望し、獄中で自ら命を絶った人…。ドラマが凝縮されているのが漂流記。そんな近世の漂流の事実を著者は丁寧に追っています。
  
小説となった漂流記はひたすらに劇的なストーリーに飲まれますが、学術書の本書は、別な意味でエキサイティング。長崎の出島、オランダ商館に残された、帰国した漂流民の「言上書」を紐解けば、難解なお役所文書の中に、やはりどどどーんとドラマが…。
  
たとえば、1685年にマカオに漂着した日本人に当惑した現地人。日本に寄ったことがあるという神父のあやふやな通訳でなんとか意思疎通を図っていると、70歳余りの老婆が登場。彼女はその50年ほど前に「キリシタン追放」で日本を追われ、マカオに送られた一人だった…。すでに忘れかけていた日本語を思い出し、彼女は「通詞」として彼らを助けることになる…といった、様々なケースを丁寧に取り上げ、資料を適切に交えながらの解説。第2部は漂流中の生活や、海外生活、出島の取調べにもスポットを当て、鎖国の時代に海外へ出ることがいかに「大事(おおごと)」であったのかを詳細にわたって検証しています。第3部では、「ではどうしてこんなに漂流が多かったのか」を探るべく、近世の海運史を紐解く。うーん。納得、あっぱれな構成。その解説は近世の航海術にまで及び、船好きも、好奇心を掻き立てられることでしょう。「近世漂流編年略史」は、研究者にもマニアにも有益な資料です。
  
漂流史というのは、どこの学問のジャンルなんでしょう? この略史を眺めていると、昔も今も、漂流民に外国人はなんという優しさと誠意をもって(そうでない例もありますが)、そして「日本と国交したい!」という野望を持って、彼らを自国に戻そうとしたのか、が垣間見え、ドラマチックであります。学術書で久々熱くなりました。

第一部では、漂流者たちの資料を用いて、冷静・客観的に解説。それでもドラマが溢れてぐぐっときます…

近世の漂流者の一人、浜田彦蔵。漂流で語学を身につけ、大蔵省に出仕

江戸時代の船の図解。各部名称も聞きなれない言葉ばかり。新鮮です

マニアックな著者は「月別漂流船数」まで数えて表にしてくれています (C)河合彦充/インタープレイ