長い! でも不思議とハマる。初恋小説の匂いが薫る、ちょいミス時代小説

小説・エッセイ

更新日:2012/3/2

蝉しぐれ

ハード : iPhone/iPad 発売元 : Bungeishunju Ltd.
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:450円

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最初に申し上げておきますが、文庫とはいえ非常に長い小説です。だって本文終了、1247ページです。文句なしに大長編。でも気づいたらハマっていて読み終えるのがさみしくなります。これほんと。

そもそも私は時代小説そのものが門外漢でして。時代物というのはもっとこう歴史上の人物が絡んでドタバタ事件が起きたりみんな血気盛んだったりするものかと勝手な想像(偏見ともいう)を抱いていたので、想像以上に優しく、初恋&ミステリーの匂い薫る叙情小説だったことに驚いた、というのが素直な感想です。

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主人公の文四郎(15歳)は、隣家に住むふくが子どもから女性に変化していくさまに戸惑いつつ、多感な思春期を順風満帆に成長していくのですが、そこで起こるのが、父親がお上より切腹を命じられるという突然の逮捕劇。続いての家禄没収。ふくの引越し。聞こえてくる「殿様の手がつきふくが孕んだ」知らせ。父親の死の真相もはっきりせず、混乱しきりの文四郎。かわいそう。しかもうまく感情を出せない不器用な男。ちょっときゅんとときめく。まあ一方で、道場でめきめき頭角をあらわしていったり、職も得て妻をもらったりと、不幸尽くしなわけでもないのですが、彼の成長過程で大きく影を落としている「父の死」と「はじめての失恋」がのちのちまで物語に影響していき、ラストの事件につながっていく。そのちょっとした謎と淡い恋心がいいアクセントになっています。

そのたゆたうような空気感にいつまでも浸っていたくなり、喪失を超えて大人になっていく過程が懐かしくもあり、いとおしくもあり。情景描写が丁寧だけどシンプルで、目の前に浮かんでくるのもその理由の一つかもしれません。読み終えたあと、非常にのびやかな気持ちにさせてくれます。時代小説はちょっと…と敬遠している方にこそオススメです。

ところでクレームというほどでもないですが、実写キャスティングに少し物申したいことが。女遊びは任せとけーぃな金持ち飄々息子・逸平にふかわりょう、ひょろっとしていて武芸はてんでだめだけど故郷に誇る頭脳の与之助が今田耕司っていうのはどうなんでしょう。いや二人が役者としてどうとか言ってませんよ。嫌いじゃないよ。でも、文四郎が市川染五郎なのに! 3人は竹馬の友なのに! アカデミー賞受賞しましたしね、いい味出してんでしょうけどね。でもなんだかものすごく釈然としないのでした。

いやいいけどさ。なぜ敢えて。そんな蛇足。

明るさ調節、フォント設定、しおり等々、iPhone用の基本カスタマイズは完備! 特にこの小説には「しおり」機能が必須なのでうれしい

個人的にはこのフォント設定ができる電子書籍がいちばん好きです

目次にもすぐ飛べます。章タイトルだけでもこの小説の世界観、伝わると思うのですがいかがでしょう?