自分の居場所がない! と思っている人に、“悪魔の身体”をもつリチャード3世が呼びかける…

更新日:2015/4/16

薔薇王の葬列

ハード : 発売元 : 秋田書店
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著者名:菅野文 価格:※ストアでご確認ください

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「自分の居場所がない」
生きづらい世の中、こんな言葉をしばしば耳にします。どこか人と人との繋がりが希薄に感じられ、居場所がなく孤立しているように感じる。ストレスフルな現代社会では、そんな居場所のない人がたくさんいるのではないかと思います。どこへ行っても、何をやっても居場所がない。いったいどうすればいいのか、途方に暮れてしまいます。

 しかしそんな人々へ、本作の主人公リチャード3世は呼びかけます。親より賜った名前こそが自分の居場所であり、絆である!と。

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 時は15世紀のイギリス。百年戦争後に起きた、ヨーク家とランカスター家による王位争い“薔薇戦争”が舞台となります。後にイギリス史上屈指の悪王として語られるヨーク家のリチャード3世の幼少期から物語が綴られます。シェイクスピアが描いたとされる詩劇『リチャード3世』では醜悪な男として迫害を受けていますが、本作のリチャードは男でも女でもない身体を持った“悪魔の子”。父であるヨーク公と同じリチャードの名を受けながらも母からは忌み嫌われ、彼はそんな自分を心底呪うのでした。父の名に唯一の絆を感じていたリチャードの悲願は“父の亡き後、父の名を持って王となる”こと。戦禍の中、呪われた運命へと漕ぎだす悲劇の王の物語です。

 過去作『オトメン』とは対照的な世界観が目を引く本作。パッと見は『天は赤い河のほとり』などを連想させますが、もっともっと重厚でダークです。そんな耽美的で妖しい世界に加え、リチャード3世の大胆な新解釈も見どころです。シェイクスピア詩劇でのリチャードは政敵を次々と殺害し、悪名高き暴君として君臨することとなります。残虐非道で非常に狡猾な奸物だったとされますが、それも唯一の救いとなる“父と同じ名”が選ばせた道かもしれない…というのが本作です。確かに、名は親からの最初のプレゼント。紛れも無い絆の証に違いありませんから、報いるのも至極真っ当です。

 激動の歴史に翻弄され、血塗られた道へ足を踏み入れる悪魔の子。劇的な展開と繊細な人間模様が光る本作は、原典を知らずともグイグイ読み進めていけます

(C) 菅野 文(月刊プリンセス)


悪魔の子、リチャード

静かにリチャードを見つめる魔女ジャンヌ

悪魔たる所以とは…

父との約束