思わず読者のほうが謎解きに真剣になる? ゆる~い本格推理小説

小説・エッセイ

更新日:2012/3/7

学ばない探偵たちの学園

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 実業之日本社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:東川篤哉 価格:486円

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国分寺市の西、恋ヶ窪の外れにある私立鯉ヶ窪学園。そこに転入してきた赤坂通は文芸部に入るつもりだったのに、ひょんなことから「探偵(小説研究)部」に入部することになってしまう。

そして、転入早々、探偵部の先輩部員2人とともに密室殺人を目の当たりにする。殺された男はアイドル盗撮カメラマン。そして同日に鯉ヶ窪学園芸能クラス所属のアイドルが行方不明になる…。

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2011年本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』の著者・東川篤哉の作品である。鯉ヶ窪学園探偵シリーズの第1作となる。

少年少女が主役の探偵モノというと、最近だとパッと浮かぶのはコナンや金田一少年と言ったところ。

ならば、優れた頭脳でサラサラと事件を解決してくれるのかと思いきや、探偵部の面々はなんともおとぼけだ。なんせ、探偵部の部長・多摩川(どう見ても変態)と部員・八ツ橋(関西弁)2人は「本格ミステリに傾倒しているだけ」の普通の人間なのだから。そんな2人に巻き込まれるようにして、事件の謎解きになんとなく加わるトオル。

しかし、そんなアマチュア探偵なキャラクターたちのおかげで、読者も同じように謎解きを楽しむことができる。実は、ミステリーなどは犯人が誰か確認してから読むという非常に邪道な読み方を普段はしているワタクシなのですが、今回は初めて、一緒に謎解きができた。

さまざまなヒントを集め、組み立て、謎を解く。シンプルな行動が自然にできるのである。

また、ミステリーの割に良い意味でちっとも緊張感がない。死体をみつけても悲壮にならないし、推理をしていても、どこか不謹慎。そのおかげかゆる~くまったりと読めてしまう。ああ、出てくる子たちったらみんな現代っ子なのね、と思わせられる。クライマックスの謎解きだって実にゆるい。関係者を集めて「犯人はお前だ!」なんてやらないし、なんせ解決するのは探偵部の部員たちではないのだ。

正直、影の主役は今回の密室の謎を解いて見せた探偵部の顧問で生物教師の石崎ではないかと思う。唯一、探偵モノにいそうなキャラだ。生物教師というところもそれっぽい。今後、どんな活躍を見せてくれるのか期待。

また特筆すべきは部長・多摩川。個人的に非常に気持ち悪いと感じるキャラなのに(ホメてます)、目が離せない。行動をチェックせずにはいられない。怖いもの見たさというやつ? 今作では空回りが大半だったけれど、いつかカッコよく謎を解いてくれることをほんのりと期待せずにはいられない。そのうち、本格素人探偵のトオルに「部長の目は節穴ですか」などと言われる前に。

細かい登場人物一覧。セリフがないキャラクターまで紹介されている時点でちょっと楽しい

「恋ヶ窪」にあるが、学園の名前は「鯉ヶ窪学園」で間違っていない。念のため

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