人間には向かない職業――死神は世界に羽ばたく

小説・エッセイ

更新日:2012/3/7

死神の精度

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著者名: 価格:450円

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その職業、死神。

対象の人間が死ぬ8日前に派遣され、その人間が死ぬことが可か不可かを調査し、報告する。可であれば対象は死に、不可と報告すれば、死は回避される。

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この連作6話の語り手、通称・千葉も死神である調査員の一人。

まるでスパイ・エージェントか探偵のように、対象の人間を観察するのだが、なにしろ人間ではないので、言うことがいちいち(我々人間からしてみれば)ズレている。

たとえば、地味女子が「わたし、醜いんです」と言えば、「いや、見やすい」と答え、恋心を指摘されて恥じらう青年に「人間が作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、もっとも醜いのは、渋滞だ。それに比べれば、かたおもいなんていうものは大したものではない」と諭す。

調査はあくまで仕事なので、この人間に思い入れて不可にする、ということはない。その判断はスーパークールだ。でも、人間がわからんと言いながら、ちょっとだけ彼を揺らすなにかがそれぞれの物語に込められていて、その揺らぎの瞬間にグッときてしまう。

これってツンデレ?
物語に死神目線を与えた設定の妙だ。

ちなみにこの探偵っぽい死神が、雪に閉ざされた山荘ものの密室連続殺人事件に挑むなんていう話も連作のなかにあって、ミステリ的なエッジが立っている。

そしてそれぞれの短篇は繋がって一つの環をなしているので、順番通りに読むことをお勧めしよう。本当に細かい設定やさりげないセリフがのちの伏線となってくるのでご注意いただきたい。

あともうひとつだけ。
表題作「死神の精度」は、アメリカの老舗ミステリ雑誌Ellery Queen’s Mystery Magazine 2006年7月号に翻訳掲載されたそうだ。死神は世界に羽ばたいている。

死神稼業はあくまで仕事。「私は、人間の死についてさほど興味がない」と言い切る千葉のクールさ

「私が仕事をする時はいつだって、天候に恵まれない…〔中略〕…晴天を見たことがない」人間、死神数あれど、究極の雨男の運命を背負っているのは千葉だけ。それもニクい設定の妙となっている

「この仕事をやる上で、何が愉しみかと言えば、ミュージックを聴くことをおいて他にない」人間に興味はないが唯一ミュージックは愛する死神たちにとってCDショップは社交場なのだ