究極の管理社会、不老不死の遺伝子の秘密を握る少年が旅に出た。近未来を描いた反ユートピア小説

小説・エッセイ

更新日:2012/3/7

村上龍 歌うクジラ

ハード : iPad 発売元 : G2010 Co.
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:1,500円

※最新の価格はストアでご確認ください。

表紙を立ち上げるとクジラが描かれた暗い海中に、主人公の記憶アイテムを内包した気泡がゆっくりと浮かび上がっていく。BGMに鯨の歌声を思わせる効果音。今までの電子書籍にはない幕開けに、心が沸き立ち、読書への期待感が高まる。

メディアを賑わした話題作だけに、心を弾ませて頁をタップした。「えっ、小説なのに横書きなんだ」と、最初はちょっと戸惑ったが、意外に気にならず読みやすい。むしろ、SF的なこの小説に似合っている気がした。紙の書籍だとこうはいかないから、自分でもびっくりだ。

advertisement

小説の舞台は、不老不死のSW遺伝子が発見された22世紀。最下層の人々が住む流刑地「新出島」で暮らす少年アキラは、SW遺伝子の秘密が入ったマイクロチップをある人物に届けるために、クチチュと呼ばれる突然変種の人間、サブロウの手を借りて島から脱出する。ここから壮絶な旅が始まる。遺伝子操作によって、功労者は不老不死になり、犯罪者は急激な老化死の刑罰を受ける管理社会、人々は記憶をコントロールされ、効率化を阻む感情や欲望、文化はすでに失われている。

手に汗握る戦闘、息を呑む残虐なシーン、児童性愛など、人の感情や欲望とは何かを考えさせられるストーリー展開は、どこまでも反ユートピア的で風刺が効いていて、私たちの未来を暗く予感させる。村上龍の知識と想像力の豊かさに脱帽だ。

さて、この本は映像と共に、坂本龍一の音楽が十数カ所に仕込まれていることでも話題を呼んだ。章毎にアートワークが表われ、一部のシーンで音楽が流れる。ただ、音楽といっても効果音に近いもので、メロディーを楽しむ趣向ではない。読書の邪魔にならなくていいが、思ったよりも控えめで、拍子抜けしたような安心したような…。

それにしても長い小説だったなあ。単行本で読んでたら、さぞ腕がくたびれたことだろうな。これから読む方は、相当の時間を要するお覚悟を!

目次には操作ガイドも含まれていて、スクロールして、ページのめくり方、明るさ調整、音量調整、ブックマークなどの操作メニューが説明されている

画面を指でちょっと上げると、下段に操作メニューのアイコンが現れる。操作はスムーズで使いやすい。ただし、文字サイズの変更や画面拡大はできない

ちなみにブックマークは、そのページの画面をしばらく指で押したままにすると、吹き出しで「このページをブックマーク」と現れるので、そこをタップして行う