『オズの魔法使い』をうまく取り入れた、まっすぐで繊細な学園青春ストーリー
更新日:2011/12/19
第5回小学館ライトノベル大賞 ガガガ大賞受賞作。
別れた相手を忘れられない私、三浦加奈(みうらかな)は死のうと決意して向かった屋上で、奇妙な3人組と出逢います。
怒ることができない「ライオン」、泣くことができない「カカシ」、笑うことができない「ブリキ」。
ライオンは言います。「一緒にやりません? 復讐。死ぬのはそのあとでも遅くないでしょう?」。
「ドロシー」になった加奈は屋上に通ううち、3人の抱えている事情に関わっていくことになるのですが――。
それぞれの事情を抱えた登場人物たちと『オズの魔法使い』の登場人物を掛けた描き方が見事に調和した作品。
「復讐」というと重いイメージがついて回りますが、主人公の加奈がそれぞれの抱える問題に対して自分なりに真正面から向かって行き、3人に欠けたものを取り戻そうとするまっすぐな姿は思わず応援したくなることうけあいです。
タイトルの屋上を燃やす「彼」が誰かは、本文を読んでみてのお楽しみ。
ちなみに3人が抱える事情は、冷静に考えてみればいつ警察沙汰になってもおかしくないハードなものばかりで、現実にあったらとても学校内だけでおさまるような内容ではないのですが…。それでも最後までするっと読めてしまうのは、独特なテンポというか「匂い」のある文体のおかげかもしれません。読後感も非常に良いラストでした。
超能力やバトル、ラブコメなどの派手な要素があるわけではありませんが、それでも登場人物それぞれがしっかりと魅力的で、キャラクター小説として成り立っている良作といえるでしょう。分かりやすいライトノベルに食傷気味な方、普段ティーンズ小説を読まない方や女性の方にも是非。
大好きだったアメ君にふられ、飛び降りを決意する加奈
知恵が無くて泣くことができないカカシ
勇気のないのんびり屋のライオン
笑うことができない、無愛想なブリキ
ドロシーは屋上以外でも3人の事情に首を突っ込むのだが…