言葉にはならない美しさを秘めた賢治童話のエッセンス

小説・エッセイ

公開日:2011/12/31

童話集 銀河鉄道の夜 他十四篇

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 岩波書店
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:谷川徹三 価格:712円

※最新の価格はストアでご確認ください。

この本には宮沢賢治の短編が14本収められている。14本というのは、

北守将軍と三人兄弟の医者/オッペルと象/どんぐりと山猫/蜘蛛となめくじと狸/ツェねずみ/クねずみ/鳥箱先生とフウねずみ/注文の多い料理店/からすの北斗七星/雁の童子/二十六夜/竜と詩人/飢餓陣営/ビジテリアン大祭/銀河鉄道の夜

advertisement

である。

ところで賢治童話というのは、なんの話か見当のつかない小説が多い。たとえば有名な「注文の多い料理店」、獣たちが運営する料理店で食べようと思っていたのに食べられそうになった男の話って、これ一体何だろう。ホラーだろうか。まさか仏教信者だからって肉食はやめましょうメッセージとしても受け取れないし。不思議な物語だ。

もっと不思議なのが「銀河鉄道の夜」、親友の死にともなって中有の世界を旅した少年が「いつまでも、どこまでも、いっしょだよ」と念を押した願いを反故にされ現世に戻ってくる。お話のウエイトは旅の途中のとりどりの景色へのサプライズにあるものの、枠物語としての反魂譚は要領を得ないままだ。「銀河鉄道の夜」を読み終えたとき、なにか足場もない空間へ放り出されたかごとき心許なさを感じるのはたぶんそのせいだ。

でもこの、にわかに割りきれない「変な感じ」が賢治童話の魅力の一つなのは間違いない。「変な感じ」がやってくるとき、作品の中から賢治が精一杯の言葉で私たちのほうに手をさしのべて、なにか美しいものを手渡そうとしているのを感じる。それは賢治が命のギリギリの場所で見つけた「ただ一つのほんとうのもの」の気がする。賢治が両手に乗せて差し出す、神秘的で驚異で美しい宝石をこの短編集で体験してください。

巻頭は、3人の兄弟医者と凱旋将軍の愉快なコメディ

独特な賢治の言葉遣いは、不思議に人の心を躍らせるのである

将軍はあまりに長い行軍のため、下半身が馬にくっついてしまった (C)岩波書店