ゆっくりと、じっくりと、気づかぬうちに不安な世界に導かれ…

小説・エッセイ

更新日:2012/2/1

まどろむ夜のUFO

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:角田光代 価格:486円

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同年代の女性作家ものを読むと、ドキドキするのはどうしてだろう?
小説を開くときには常として、日常と軽く隔絶したく、想像の世界で遊びたく、決して自分の人生では登場しないだろう人物や見られないものをみたり感じたり「どきどき」したいから開くのですが、もちろん、そうでない小説もあるわけで。これが明確にその一つ、でもドキドキした作品です。

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彼女の作品の「ドキドキ」の源泉は、残念ながら恋愛のドキドキではなく、冒険のドキドキでもなく、一様に満遍なく敷き詰められた「不安感」と私は解釈します。同年代女性作家の恋愛ものなどを読むと「わかる~わかる~」というどきどきをよく味わうものですが、彼女の描く世界はまったくもって、そういうわかりやすい世界ではなく。それでもドキドキするのは、私たち世代に共通した「不安感」みたいなもの? と読みながら行きつ戻りつ、強烈に個性的な作品に邂逅した感で一杯になり。居心地が悪くなるような、世界が足元からなくなってしまうような不安感。それが非常に限られた人数の登場人物と限られた面積内で語られてゆきます。

読み進むほど、どうしようもない「やりきれないような」気持ち。それは「絶望的」ではなく、真綿で首を絞められるような、芥川の「ぼんやりとした不安」のような、そんな種類の不気味な不安定な世界の中に引きずり込まれる感覚。

表題「まどろむ夜のUFO」では、田舎から上京し、働いている主人公のところへ弟タカシが訪ねてくることから物語りが始まります。東京にいる彼女に会いにきたというタカシは、料理上手。彼女のためにせっせと食べ物を作る弟、弟が電車の中で声をかけられて友人になった恭一も家に出入りするようになり、5日に一度だけ会うと規則のように決まっている几帳面な友人サダカくんも主人公の生活に不思議な介入をしてくる。UFO好きな弟がやがて、新興宗教とも間違えるような野宿をする集団に入り、TVに出ている有名人だという彼女は、本物なのか、弟の想像なのか。

どんよりと低い霧がいつまでたっても晴れないままの作品。なのに確実に明らかな「後味」を残してくれます。この後味の好き嫌いは個人に任せるとして、実力派なのはこの作品を読んだだけでよくわかりました。何度も芥川賞候補になっているというのも、納得のスタイル。

表題作のほか、ルームメイトだったアサコが突如姿を消し、「アサコと一緒に河童を見た」と彼女を探す眼鏡男と同居を始める『もう一つの扉』、幼少時に部屋探しをし続けるおばにつきあった主人公と、その彼との部屋探しの話が交差する『ギャングの夜』が収録されているこの一冊。いつもの小説、ありきたりな物語とステレオタイプの登場人物に飽きている、ヘビーな読書家にお勧めです。

導入部は、久々の弟との対面の場面が密に描かれ。感動の「兄弟もの」なのかと思いましたが

なかなか彼女の話をしてくれない弟。もしかして?

にわかサスペンスなムードも出てきて

「暗闇の中に流れる寝息が次第に数字に変わっていく気がした」と表現されるサダカくん。こういうキャラクターはなかなかいない (C)Mitsuyo Kakuta 1996