怪談でなければ描けない世界。和モノ幻想の絶品です!

公開日:2012/1/14

百鬼夜行抄(1)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 朝日新聞社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:今市子 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

『百鬼夜行抄』は連載開始以来、絶大な人気をほこっている今市子の代表作。そして、わが国の怪奇幻想マンガ史上に太字で特筆されるべき不朽の傑作です。この作品について語るとき、胸の高鳴らない怪奇幻想ファンはいないのではないでしょうか?

advertisement

主人公の男子高校生・律には幽霊や妖怪など、この世ならぬ存在を感知する能力がそなわっていました。それは幻想小説の大家で、陰陽道や道教にも通じていた祖父・蝸牛から受け継いだもの。その能力をもとに、地方都市の旧家とその周辺で巻きおこる奇怪な事件を、律が解決してゆくというのがこのシリーズの基本的な筋立てです。

律の周囲には祖父の遺産ともいうべき妖魔・青嵐がひかえており、憎まれ口をたたきながらも律の危機を何度も救ってくれます。飄々とした二人の掛けあいは実に楽しく、読者サービスたっぷり。しかし気がつくと物語は、いつしかひどく妖しいものに変わっています。怖い、怖いと思いながらも、最後まで一気に読み通すことになるのです。

物語全体を包んでいるのは、たとえていうなら蛍光灯の光ではなく、ランプや蝋燭のようなぼんやりとした光。部屋のなかこそ明るくあたたかいですが、一歩敷居をまたぐとそこには真っ暗闇が黒々と広がっていて、人間ならざるものたちが彼らのルールで棲息している。その闇の濃さ、妖しさ、懐かしさ…。『百鬼夜行抄』という作品は、幽霊や妖怪といった想像上の存在を、不思議なほどありありと感じさせてくれるのです。主人公の律をはじめとして、美形ファンが出てくるのもこの作品の魅力。やっぱりこの手の作品には美男美女がいっぱい登場しないとね。

日本庭園、生け花、茶室。ついそんな言葉が思い浮かんでくるような、「佇まい」の美しい作品です。そのうえ怖い。妖しい。美しい。どの短編も精緻な細工物のようなミステリー仕立てになっており、大人のマンガファンにも深い満足を味わわせてくれるでしょう。怖い話は苦手、なんてことはいわずに、ぜひこの妖しい闇を感じてみてください。この世には怪談やホラーという形式を取ることでしか描けない、滋味深い境地があるのだ、ということがきっとお分かりいただけると思います。

美しいカラー口絵は電子書籍での鑑賞に向いています

これが主人公の祖父・蝸牛。生前さまざまな妖魔を呼び出した張本人

主人公の律には、不思議なものを見る能力が

蝸牛の初七日の晩には、この世ならぬものたちがやってきた

律のピンチをいつも救ってくれるのは妖魔・青嵐 (C)Ichiko Ima/The Asahi Shimbun Company/p>