ミステリーでも推理小説でもない、レトロで妖しい「探偵小説」の醍醐味をたっぷりと
公開日:2012/1/21
海野十三は、「うんのじゅうざ」または「うんのじゅうぞう」と呼ばれる、探偵小説作家で、とくにSF風味の探偵小説を書き、日本SF小説の祖ともいわれる人です。この傑作選には彼の代表的な短編が網羅されていますから、作家の全体像を知るには最適の一冊ということになります。
「怪奇探偵小説傑作選」とありますように、たしかにSF風味とはいってもグロテスクだったり、幻想的だったりする、いわゆる「奇妙な味」の作品が骨頂でして、まあ実に奇々怪々なシチュエーションが次から次へと展開されるのに驚きますね。
たとえば「電気風呂の怪死事件」なる一作。「電気風呂」というのがあったらしいんですよ。銭湯でね、おそらく微弱電流を流すんですね、お湯に。ぴりぴりっと刺激があって、ま、確かに血行はよくなるでしょうが、しかし電気をむきだしでというのは野蛮というか…。とにかく、そうした銭湯で過剰な電流が流れて感電したという騒ぎが持ちあがり、その隙に女湯には女の死体が浮かんでいた。悶絶死の一部始終を天井ののぞき穴から撮影していたもののあったことが判明し。谷崎潤一郎に「柳湯の事件」ていう僕の大好きな短編がありましてね、銭湯にいい気持ちで浸かっていたら足元になにかグニュグニュしたものがさわり、それが女の死体としか思われず、柔らかな弾力が不気味でもあり快感でもあり、といったおかしな作品でして思い出してしまいましたね。
あるいは「赤外線男」。赤外線というものが開発されていた時代なんですね。赤外線カメラを作っている男が主人公で、試作機のテストをしてみたら、赤外線にしか写らない「赤外線男」という生き物が棲息していることを発見し、誰にも見られず殺人が可能と、世の中大騒ぎになるというお話。
「生きている腸」。標本管の中に入った腸がクネクネと生きているというのですね。そういうことは決してめずらしくなくあることなんだ、と書いてあるんですけど、ほんとうでしょうか。ある青年が手に入れた生きている腸を、次第に気体の中でも生き続けるようにならして、奇妙な同棲生活をはじめるが、恐ろしい誤算に見舞われる。も、グロ。こういうの好きな人絶対いる。
表題作の「三人の双生児」は、語り手の五、六歳のころのあやふやな記憶では、自分には兄弟がおり、なんとか再会したいと望むのだが、父の古い日記に「恐ろしき三人の双生児」としたためられていたのを想起し、双生児なら二人のはずがなぜ三人なのだろうという疑問から謎と事件の渦中に投げ込まれていくという物語です。
もとよりレトロな雰囲気は横溢の、妖しいミステリーを読んでみたいなら、お薦めでございます。
タイトルがずらりとゲロゲロな感じではや可愛いんである
のんびりした風情で始まるのもお約束
突如ビリビリッと感電し、湯の底へ沈んで見えなくなる客が
一段落してみれば、女湯にも死体があるではないか。アナクロな筋運びが気持ちよいぞ