ただ、龍よりも速く飛ぶ為に…。男心を刺激する航空ロマン譚
公開日:2012/2/24
操縦桿を握りながらカール・シュニッツは目を懲らした。大空の彼方に見えたのは、眩いほどに輝く一対の翼。鱗粉のように撒き散らされる光の礫。それは、いまだ人類が到達できない領域の存在――龍の雄姿だった。
「彼らが舞うあの世界は、痛みも悲しみもない場所に違いない」
少年の頃からずっと…そしていまもなお、カールはそう信じてやまない。これはまだ、龍の翼に神秘があった頃の物語。遙かなる神々への領域を目指した、挑戦者たちの記録。
と、ここまでだと完全にプロジェクトXなんですが、読んでみると…。まぁやっぱり、だいたいプロジェクトXです。
ざっくり言うと、「世界一速い飛行機に、おれはなる!」というお話です。なんとも、爽やかですね。ただ速く、自由に空を飛びたい―。これは本当に漢のロマンだなぁ…と、穢れなきあの頃を思い出します…(遠い目)。
ラノベ! といえば、女性キャラが欠かせないモノですが、残念ながら本作には、やや口調がアレ気な女子が一人っきり出てくるだけです。硬派である! 終始むさ苦しいオッサンと年寄りばっかり出てくる作品ですが、悲願であるジェットエンジンが完成したときの、なんとも言えない高揚感は漢ならではの特権でしょう。
さて、そんな漢の汗にまみれた爽やかロマンの本作品ですが、話が進むにつれて段々と硝煙の臭いと血生臭さがニオイ立ってきます。あぁ、やっぱりなのですね、虚淵先生…。ムクムクと立ち込める暗雲。主人公カールの血塗られた過去や葛藤、戦争、軍部とのジレンマ。避けては通れない自由との代償が、痛々しく綴られます。
おどろ、おどろと、まどマギよろしく、いつもの虚淵展開になっていくわけですが、しかし、これがあってこその深みや渋み。漢の格好良さとはこうあるべきです。総じてストロングなブラック珈琲みたいな作品なので、砂糖多め、ミルク多め、ついでにクリームも…なんて方にはオススメできません。
ちなみに、表紙の絵が恐らくカールなのでしょうが、スティーブマックイーン似のオッサンが本当のカールです(と信じたい)。
――太く短い。
渋い魅力を感じたいなら、そんな美少女の出てくるような萌え作品は直ちに焼くか、今すぐ私にくれるかして、本作を読んでいただきたい!
最速の龍は音よりも速い
プロジェクトX!
横書きモードもあります