スター選手を支えるプロフェッショナルたち。知られざる「打撃投手」の世界に驚け!

公開日:2012/2/24

打撃投手 天才バッターの恋人と呼ばれた男たち

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:澤宮優 価格:1,296円

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打撃投手とは、バッターの打撃練習のために投球する専門職のピッチャーのこと。バッティングピッチャー、略してバッピとも呼ばれる。この職制、日本だけなのだそうだ。

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著者の澤宮氏は8年前に同じタイトルの著書を出している。それは王、長島というスター達の相手を務めた打撃投手を追ったものだったが、当時と比べて打撃投手の様相がさま変わりしている(より専門性が増してきた)ので、新たに取材して書き下ろしたのが本書。ここではイチローや松井秀喜、清原和博、前田智徳、落合博満など近年のバッター達の「恋人」が紹介されるとともに、打撃投手というプロの実態が浮き彫りにされている。その様子は驚きの連続だ。

一軍の現役ピッチャーは週1回の登板で1回につき100球程度。しかし打撃投手は毎日毎日、120球から200球投げるという。しかも、ただ投げるだけではない。現役投手は打者に打たせないように投げるが、打撃投手たちは打者に打ってもらうために投げるのだ。スローボールと言われればスローを、インコースと言われればインコースを。いかに気持ちよく打ってもらうかが課題になる。

その難しさを乗り越え、打撃投手のプロフェッショナルになった男たち。イチロー、前田智徳、立浪和義、落合博満といった天才打者たちが、打撃投手へ高度な要求をするのにも驚かされるが、それに答える投手たちのプロ根性がすごい。そしてそういう天才打者たちは、常に打撃投手への感謝を忘れないというエピソードにも唸ってしまう。

人間ドラマが堪能できるのは第二章。新人王をとった投手や豪腕セットアッパーなど、一軍で活躍した選手が引退後に打撃投手になった例が紹介されている。スターから裏方へ。そのプライドや意地のもって行き場のなさ。第三章ではメジャーにも挑戦した入来祐作投手が引退後に打撃投手になったものの、イップス(メンタルに起因する運動障害)に悩まされた話も。エースだったからと言っていい打撃投手になれるとは限らないという難しさがよくわかる。また逆に打撃投手から支配下登録されたという逆バージョンも。

印象的だったのは、「裏方」という表現に抵抗を感じる打撃投手の言葉だ。選手がプレーするのが表舞台という意味なのかもしれないが、自分たちは「裏」ではなく、ひとつの専門職なのだという自負が伝わってくる。バッターたちの華やかな記録は、打撃投手なしでは成し遂げられなかったものばかりなのだ。プロ野球の見方が変わる1冊。


各章の扉には懐かしい写真が。これはオリックス・ブルーウェーブ(現バファローズ)時代のイチロー

第二章の目次には、一世を風靡した投手の名前も