ハーバード式、集中力の高め方! ADHD研究者が説く集中力のトレーニング法

暮らし

公開日:2018/1/29

『ハーバードメディカルスクール式 人生を変える集中力』(ポール・ハマーネス、マーガレット・ムーア、ジョン・ハンク:著、森田由美:訳/文響社)

 やるべきことが目の前にあるのにスマホばかり見てしまう。3つの仕事を同時に進めようとして、1つも終わらない。そそっかしい単純ミスのせいで実力が発揮できない。どれも多くの人が日常ではまってしまう落とし穴ではないだろうか。特に、ADHD(注意欠陥多動性障害)(※注)の傾向を持つ人の日常には、死活問題となるようなレベルでこの類の落とし穴は出現する。その人がADHDかどうかの線引きは、簡潔に言うならば「症状の程度の問題」である。言い換えると、ADHD患者ではない人にも、ADHD患者と同じ失敗を犯す可能性は十分にあるのだ。たとえば、恋人と大喧嘩をした後にイライラしたままの状態で車を運転すると、不注意による運転ミスを引き起こす確率は普段よりも上がる。

※注)ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder = AD/HD)・注意欠陥多動性障害。不注意(集中力がない・気が散りやすい)、多動性(じっとしていられない・落ち着きがない)、衝動性(順番を待てない・考える前に実行してしまう)の3つの要素がみられる障害のこと。近年では成人後の診断も増えている。

 多くの人は、「充実した毎日を送りたい」「日々の生産性を上げたい」と考えるものだ。そんな毎日を送るためのカギとなるのが「集中力」である。ハーバード大学医学部精神医学准教授のポール・ハマーネス氏は、ADHD研究のスペシャリスト。彼はADHDの研究で明らかになった脳のプロセスやマネジメントの方法を、一般の「集中力」に悩む人々にも広く応用し、成果を上げている。そんな医師と、コーチングの権威であるマーガレット・ムーア氏(通称メグ・コーチ)、有名なジャーナリズムの教授であるジョン・ハンク氏の共著、『ハーバードメディカルスクール式 人生を変える集中力』(ポール・ハマーネス、マーガレット・ムーア、ジョン・ハンク:著、森田由美:訳/文響社)をご紹介したい。あなたの人生を支える「集中力」を強化するためのノウハウが、本書では具体的に解説されている。

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 ADHDの人は物事に集中することができないのかというと、実はそうではない。大きく違うのは、自身が集中すべき対象を意図的に切り替えたり選別したりすることが不得意だという点だ。例えば、ADHDの子どもが一度ゲームに熱中してしまうと、ゲームから離れるということに大きな労力を要してしまい、そのエネルギーは「学校の授業に集中すること」くらい難しいという実例が本書では紹介されている。ただしこのような現象は、ADHD患者に限らず多くの人々が体験する。イライラしたときの注意散漫な運転や、仕事中のスマートフォンの誘惑など、我々の集中力を遮断する落とし穴は日常に数多く存在する。

 このような集中力の阻害を引き起こす要因として、本書では「目的志向型の注意」と「刺激駆動型の注意」の2種類の注意が紹介されている。前者の注意は、内面の目標や願望から主体的に引き起こされるもので、「宿題を期限までに終わらせるために集中する」などといった場面で発揮される。それに対して後者の注意は、「火事だ」という叫び声や、力強いギターのコードなどによって誘発されるものである。その情報に命を救われることもあるが、多くの場合は無害で気まぐれな刺激だ。スマートフォンの通知や外の音などに気を取られずに仕事や勉強を遂行するためには、上述した2つの注意のスイッチを自制できるかどうかがカギとなる。ADHD患者は注意の切り替えを司る脳の領域に異常があることが判明しているのだという。

 目標に向かって仕事や学習に集中するためには「目的志向型」の集中力を高める必要があるのだ。その方法として本書では、「フロー体験を増やす」ことが有効だと解説されている。フローとは、「人間が自分自身のためそのときしている活動に完全にのめりこみ、困難で価値ある成果を達成するため自発的に心身の能力の限界に挑戦すること」だという。よくスポーツ選手が「ゾーンに入る」と表現するのも、これと同じ状態である。このような経験を積むためには、「自分がのめりこめる物事を見つけ、先を見越して少し念入りに計画を立て、“今この瞬間”に意識を向けること」が大切なのだ。

 これまで本書の一部の「集中力を高める」方法をご紹介したが、あまり堅苦しくなりすぎずに、たまには「ボーっと」息抜きをして脳を休めることも重要だ。その効用も本書では説かれている。自身のペースで集中力を高めるトレーニングをしてみたいと思う方にとって、本書は最高のパートナーとなってくれることだろう。

 また、ADHDの傾向が成人後に顕在化するケースも往々にしてある。もし読者の皆様の中に、ご自身にADHDの疑いを持つ方がおられたら、まずは専門家に相談することを強くお勧めする。著者も書中でそう述べている。信用のおける一時的なADHDのチェック項目リストは本書に収録されているし、インターネット上にも数多く存在する。メディカルクリニックなどの機関に頼ることに抵抗感を持つ方もおられるかもしれないが、どうか一人で抱え込まないようにしてほしい。私にもADHDの診断歴がある。10代後半になって、通学が成り立たず、生活も行き詰まり、暗くて散らかった部屋でただうずくまっている毎日だった。信用のおける医師に手を組んでもらえたことは人生の大きな分岐点になった。世の中はそんなに悪くはない。同士の健闘を祈る。

文=K(稲)