「スクールカースト」を明るくコミカルかつ痛々しく描く残念系青春ラブコメディ

ライトノベル

公開日:2012/3/7

ガガガ文庫 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:渡航 価格:324円

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「残念系青春ラブコメ」というジャンルをご存知でしょうか。

社交性に欠ける、人付き合いが苦手、逸脱した個性(いわゆる残念特性)によりまわりから相手にされないなどで、主に「友達がいない、もしくは極端に少ない」といった状態にあるキャラクター。彼ら彼女らを用い、青春・恋愛・喜劇性を描くジャンルで、今、特にライトノベルで高い人気を誇っているのです。

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本作『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は、主人公である残念系の男子高校生・比企谷 八幡(ひきがや・はちまん)が、強制的に入部させられた「奉仕部」で出会った美少女部員たちとドタバタ活躍劇を繰り広げます。ちなみに、非公式略称は「はまち」「俺ガイル」。

残念系青春ラブコメで人気が高い『僕は友達が少ない』(略称:「はがない」)の著者・平坂 読が推薦するラノベでもあります。はがないのキャラクターたちが所属する「隣人部」は友達作りが目的であるのに対して、はまちは悩みや相談にやってくる生徒の相談に乗る“人のために尽くす部”。このことがファンの間で類似性を持って語られたり、対比的に見られたりされ、見解や議論がネット上で散見されます。

著者・渡航は本作が2作目。
個人的には、以前、電子部(当サイト)でレビューを書いた処女作『あやかしがたり』において、時代劇×妖怪モノというジャンル設定と、高い筆力から、若手本格派作家のにおいを感じていたので、そんな著者がまさかのラブコメに挑戦ということで、ワクワクしながら拝読。みごと、気持ちのいいカウンターをもらいました。

はまちの特長は、残念すぎる特性による笑いや、美少女たちのギャップ萌え以上に、「ここまで綿密に描くか」と思わされる「スクールカースト」の描写。

「スクールカースト」とは、主に中学や高校で発生する、“人気”で序列する階級社会のこと。「人気のヒエラルキーによるクラスの階層化」などともいわれます。呼称は、インドの階級制度「カースト制度」から。いわゆる上位の「人気グループ」から下位の「不人気グループ(往々にしてオタクグループ)」までがいわば階級化され、さらには最下層に、友達が作れない孤独な「ぼっち」がいて、まるで奴隷のように見られたり、ひどい扱いを受けたりします。

本作の主人公も、オシャレグループからテキトーな名前で呼ばれたり、なにかにつけて見下したりバカにされたりします。それでも、本作が明るくコミカルなのは、主人公が「それでも、見せかけの友達面で馴れ合うより、孤独で気ままな方がいい」と自分をひたすら肯定しようとしているから。

そんな主人公が、学校一優秀(すぎる)がゆえに誰をも寄せつけない、デレなど知らぬツンツン美少女・雪ノ下 雪乃(ゆきのした・ゆきの)と共に、カースト最上位グループにけんかを売るわけですが、果たして…!

「コミュ障(=コミュニティー障害)」や「トイレ弁当(=1人で弁当を食べるのが人に見られたくないので、トイレでこっそり食べる)」など、孤独を強いられている人たちに、大きな勇気を与えてくれる作品です。


自己肯定が激しい主人公。「高校生活を振り返って」のレポートは、青春の否定で満ちあふれています

前述のレポートを見た教師の、ネチネチとしたお叱り。「犯行声明」「テロリスト」など、随所に出てくる著者ならではの鋭い表現が、前作より進化しています。ちなみに、ラブコメらしく「設定」でフォントをゴシックにしたら、こんな感じ

優秀・有能すぎてぼっちな雪ノ下 雪乃。決して安易にデレませんが、後半には胸アツの萌えポイントが。ちなみに、登場人物の名前は神奈川県内の地名に由来しているとのこと。文字を大きくして横書き設定にしてみると、こんな感じです