敗戦の日も列車は走っていた。鉄道紀行作家の人生の1冊

公開日:2012/3/13

私の途中下車人生

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:宮脇俊三 価格:864円

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「時刻表2万キロ」など、鉄道紀行を文学の一ジャンルにまでしたと評される紀行作家宮脇俊三の書。

一章では、著者の幼年期がインタビュー形式で綴られる。
機械文明に対する興味が国民全般に強かった時代。当時の山の手線は四分間隔、貨物列車の時刻は記載されていないこと。東海道本線の駅名を全部暗唱したこと。ひと夏をかけ、ダイヤグラムを作成したしたこと。あこがれのループ線に乗ったことなど、著者の鉄道好きらしいエピソードが明かされる。

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そして陸軍気球隊隊長だった父宮脇長吉氏の存在。その父が、風向きのせいで観測用気球が宮城の上空を飛んでしまい、その責任をとり、気球隊の隊長を辞め、軍人から代議士となった経緯。そして宮脇長吉氏が遭遇した「黙れ事件」。1938年、国家総動員法の委員会審議で横柄な演説をした説明員の佐藤賢了陸軍中佐に対し、宮脇長吉が野次を飛ばし、佐藤に「黙れ」と怒鳴られるという事件が起きる。おかげで佐藤賢了の発言が衆議院から問題視され、委員会は紛糾。軍事色の強い時代らしい事件だといえる。

そして著者は終戦後、東京帝国大学理学部地質学科、その後、中央公論社へ入社。それから紀行作家となり、国鉄全線完乗を遂げる。それから著者はヨーロッパ鉄道、アメリカ鉄道の旅へと、その範囲を広げるのだった。

著者は言う。鉄道というのは、鉄のレールの上を鉄の車輪が走るという点に特色がある。
おかげで何十輌もの車輌を連結できるし、安全にすれ違いが可能である。その代わり、追い越しができない。そのような運行システムである鉄道は、システム自体が複雑ではあるが、その複雑さが永遠の魅力なのだという。

読者は、本書でその鉄道の魅力を充分に知ることができるだろう。


本書の目次。「国破れても…」というタイトルが本当に印象的。時代がわかる

第一章のタイトル。このあこがれが少年を紀行作家にした

そして人間は年を重ね、終着駅へ。しかし鉄道紀行作家として作品は残る。旅は続く

こちらが本書の中身。導入部から引き込まれる内容。山の手線の昔の情況を今、語れる人は少ない (C)Machi Miyawaki 1986